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犯罪白書
犯罪被害者を取り巻く社会的動向-令和7年版犯罪白書特集「犯罪被害の実態」を読んで-
阿部 千寿子
Ⅰ はじめに令和7年版犯罪白書(以下「白書」とする)では、第7編に「犯罪被害の実態(犯罪被害の暗数と精神障害を有する者等の性犯罪被害)」と題する特集が組まれている。特集として犯罪被害や犯罪被害者等(以下「被害者」とする)の実態等について取り上げられるのは、「犯罪被害の原因と対策」(昭和61年版)、「犯罪被害者と刑事司法」(平成11年版)以来、25年ぶりである。ただ、この間も白書では、犯罪被害について取り上げられなかったわけではない。平成12年から、犯罪被害実態(暗数)調査が5回に渡り調査が行われて、毎回、白書においてそれらの分析結果を紹介してきた。また、この間に、被害者に関する法改正等が多数なされており、それに並行する形で、白書のルーティーン部分に被害者に関する項目が加えられ、平成14年版白書からは一つの編として独立し毎年分析されている。
被害者施策の大きな転換期となった平成16年の犯罪被害者等基本法制定以後、平成17年から第1次、第2次、第3次と5年の計画期間ごとに犯罪被害者等基本計画(以下、「基本計画」とする)が策定され、この20年間で被害者施策は大きく変化・進展してきた。現在は第4次基本計画の見直しと第5次基本計画の策定に向けた検討も始まっており1、被害者だけでなく、性犯罪やDV、ストーカーなど、刑事司法全体を取り巻く環境が大きく変化してきたこのタイミングで、改めて犯罪被害実態調査と被害者施策について特集し、分析検討する意義は大きい。そこで、本稿においては、本特集を概観するとともに、それぞれ要点を整理したのち、若干の考察を試みたい。
Ⅱ 犯罪被害の動向
第7編第2章では、統計上の犯罪被害について特徴的な傾向が伺える9つの犯罪類型を取り上げて、被害者に着目した犯罪動向について概観している。そのうち、近年の法改正や社会状況により大きく特徴が表れたと思われる性犯罪、詐欺、配偶者からの暴力(以下、「DV」とする)・ストーカーについて見ていく。
1 性犯罪
性犯罪に関しては、平成29年と令和5年に改正がなされていることから、強姦、強制性交等、強制わいせつなどの改正前の規定から罪名が変更された「不同意性交等」と「不同意わいせつ」の動向を概観している2。
不同意性交等と不同意わいせつの認知件数は、平成15年をピークに減少傾向にあったが、不同意性交等は1度目の法改正があった平成29年から増加傾向に転じ、2度目の法改正があった令和5年は前年の約1.6倍と大きく増加し、不同意わいせつも令和3年以降増加し続けている(7-2-1-1図)。令和6年は両犯罪とも、検挙件数や検挙人員も最近30年間で最多となっている。白書によれば、これらは法改正における犯罪の構成要件自体の拡張・整理に加え、非親告罪化、公訴時効期間の延長などが、被害を顕在化させる方向で機能していると指摘されている。実際、男女別、年齢別の被害者の人員の推移を見ても、平成29年改正以降は不同意性交等について男性は対象となった点、男性女性両方において令和5年以降性交同意年齢が16歳に引き上げられたことで13~19歳が多くなっている点などを鑑みても、法改正の影響を色濃く反映したものといえよう(7-2-1-4図)。
また、被害者と被疑者の関係別に見た検挙件数の構成比の推移では、不同意性交等は、平成17年には面識なしが約6割であったが、令和6年には26.7%へ低下している(7-2-1-7図)。不同意わいせつも、平成17年には80%を超えていたが、令和6年には50%台へ低下している。それに比例して、実子・養子、その他の親族、職場関係、知人・友人、などの面識ありについては、割合が増加している。これらは、近年フラワーデモなどの社会的に性被害を可視化する動きや法改正を背景として、家庭内、学校内、職場内、知人間などこれまで被害申告自体しにくかった事案が顕在化したことの一端を表しているともいえよう。
次に、検察における起訴人員を見ると、不同意性交等も不同意わいせつも、減少傾向にあったが、不同意性交等は平成30年から、不同意わいせつは令和4年から増加に転じ、令和6年は、不同意性交等は1,165人に、不同意わいせつ1,544人であった(7-2-2-1図)。ただ、起訴人員が近年増加するとともに、不起訴人員も、両犯罪とも増加しており、そのうち特に、嫌疑不十分人員及び嫌疑不十分率は、増加傾向ないし上昇傾向にある。この点、白書では、この種事犯の捜査においては、なお様々な困難が存在している状況がうかがわれると述べている。実際、性犯罪は、密室等で目撃者もなく行われることが多く、被疑者と被害者の証言に食い違いが生じてしまう場合も少なくない。そうなると、事案によって状況は異なるといえども、時間や場所を特定するための録音、映像、 直後の通報、診断書など被害者の供述を裏付ける物的証拠が必要になるが収集が困難であることも多い。それらの影響もあり、嫌疑不十分などが増えているのではないかと推察する。
2 詐欺
詐欺の認知件数は、いわゆるオレオレ詐欺が増加した平成17年にピークを迎えた後、令和2年まで減少傾向にあったが、令和3年から再び増加を続けており、令和6年には、平成17年の約7割の水準に達している(7-2-1-2図)。また、検挙率は、平成7年には、90%を超えていたところ、認知件数の増加及び検挙件数の減少に伴い、平成16年は32.1%まで低下し、令和6年には28.2%となった。被害者の年齢層別人員は、男女ともに65歳以上の高齢者の割合が高く、特に女性高齢者の占める割合は、平成23年以降一貫して40~60%台を占めている(7-2-1-5図)。
これらの認知件数の増加や被害者の年齢別の数値を見ても、その背景に高齢者に被害が多い特殊詐欺がいまだに減少していない現状が少なからず想像される。特殊詐欺については、罪名としては、詐欺のほか、恐喝又は窃盗にも該当し得ることに留意する必要があるが、白書第1章の特殊詐欺の認知件数を見ても、平成21年に減少した認知件数が、キャッシュカード詐欺や預貯金詐欺などの種類が増えるともに、認知件数も令和2年より毎年増加傾向にある(1-1-2-8図)。特殊詐欺を含む詐欺被害については、被害額も高額になる場合も珍しくなく、特殊詐欺の被害総額も令和6年に至っては、約718億円にまで上り(1-1-2-8図)、白書で指摘されるようにその被害は深刻な情勢にあると言えるだろう。
また、令和7年4月に犯罪対策閣僚会議決定された「国民を詐欺から守るための総合対策2.03」によれば、令和6年は、特殊詐欺に加え、SNS型投資・ロマンス詐欺4が急増し、その被害額は約1,270億円と、前年の約3倍に増加したとされる。詐欺の認知件数の増加からは、そうした状況を推察することもできるだろう。
近年、海外を拠点とした詐欺グループの摘発や若者の「闇バイト」などに社会的関心も集まっているが、詐欺を敢行する犯罪グループの方法手段がより複雑化、巧妙化し、一件あたりの被害額も多額になっている中では、統計上の詐欺被害の動向や暗数調査などが引き続き重要になってくるだろう。
3 DV・ストーカー
DVの相談等件数は、平成13年に配偶者暴力防止法が施行されて以来、平成14年以降は増加傾向にあり、令和6年には9万件を超え最多となった(7-2-1-3図)。ストーカーの相談等件数も、平成13年と平成24年にそれぞれ大きく増加し、平成29年に2万3,079件に達した後は減少傾向にあり、令和6年は1万9,567件であった(7-2-1-3図)。
配偶者暴力防止法については、平成13年施行以降、平成16年、平成19年、平成25年、令和5年などの複数回の改正を経て、配偶者からの暴力の定義の拡大、対象となる被害者の範囲の拡大、保護命令制度の拡充がなされた。ストーカー規制法についても、平成17年、平成28年、令和3年の改正を経て、それぞれ規制対象行為が拡大された。これらの法改正は、認知件数の増加に一定程度の影響を与えたものと推測される。一方、DV・ストーカーの令和6年の検挙件数は、配偶者暴力防止法違反で69件、ストーカー規制法違反で1,341件であった(7-2-1-3図)。起訴人員を見ても、令和6年は、DVは42人、ストーカー規制法は増加傾向にあるとはいえ659人であった(7-2-2-3図)。相談等件数は多いが、検挙件数や起訴人員が多くないのは、これら2つの法律が、重大な身体的被害が発生するのを防止し被害者を保護するため、検挙や起訴に至る前の介入することを目的にしている点が表れているように思う。
Ⅲ 犯罪被害者等施策の現状
第7編第3章では、「数値から見る犯罪被害者等施策」の現状が紹介されている。それぞれの制度について、これまでも白書で数値が紹介されてきているが、制度によっては、経年比較は令和元年版以来のものもあり、これらのデータは制度開始からの状況やその定着度合いを読み取る重要な資料となっている。そこで、次に、それぞれの制度ごとにその結果を概観していく。なお、被害者に対する司法面接的手法による代表者聴取については、特別調査の結果と合わせて、Ⅴで検討することしたい。
1 被害者等通知制度
被害者等通知制度とは、捜査した事件の処分結果や、裁判の期日と場所、裁判結果、加害者の刑務所からの出所情報、仮釈放や保護観察に関する情報、死刑を執行した事実等を通知する制度である。平成13年から検察庁が実施し、平成19年からは加害者の処遇状況に関する事項も通知事項となった。刑事裁判確定までは検察庁が通知し、刑事裁判確定後の加害者の受刑中については刑事施設から検察官を通じて通知され、仮釈放審理や保護観察については、地方更生保護委員会や保護観察所が通知を担う。
検察庁における通知件数としては、平成17年から順調に増加しつつけ、令和6年には、13万8,476件となった(7-3-1-1図)。矯正において、刑事施設に関連する通知件数は、平成19年の同制度の拡充後、増加傾向を示し平成29年には総数が3万9,094件で最多となったが、その後は横ばいである(7-3-2-1図)。更生保護において、刑事処分を受けた加害者に係る通知件数は、平成29年(1万1,215件)をピークにその後は1万800件より下を横ばいで推移している。これらの数値を見るに、害者等通知制度は制度開始から20年程度経過し、被害者にとって制度として定着してきているように思われる。
2 被害者参加制度
被害者参加制度についても、毎年の白書で通常第一審における被害者参加制度の実施状況の推移は紹介されていたが(令和7年度版白書では6-2-1-3図)、本特集では、実施状況の罪名別構成比が示された(7-3-1-5図)。それによれば、一番割合が高かったのが、交通事故事案で、自動車運転死傷処罰法違反33.8%であった。全体の認知件数に占める割合や死亡者数の多さを鑑みれば、当然の結果であろう。また、被害者参加制度では、裁判員制度と違い、過失運転致死傷罪で死亡あるいは心身に重大な故障がある場合には、被害者参加できることも影響していると考えられる。また、不同意性交等と不同意わいせつも32%と高い割合を示した。制度導入時には、性犯罪については、二次被害を受ける恐れから被害者参加を控えるのではないかとの懸念もあったが、遮へいなども活用しながら一定程度の参加がなされていることがうかがわれた。
3 心情等聴取・伝達制度
心情等聴取・伝達制度は、元々は更生保護における被害者施策の一つとして、平成19年の更生保護法改正によって導入された制度であり、「心情等伝達制度」という名称であった。その後、令和4年の更生保護法改正により、保護観察中の加害者への伝達を前提としない聴取を新たな選択肢として加えて統合し「心情等聴取・伝達制度」となった。また、令和4年の改正では、刑事収容施設法も改正され、刑事施設等が被害者の心情等を聴取し、被害者が希望すれば被収容者に伝達し、その結果を被害者に通知することができるようになった。
矯正における心情等聴取・伝達制度については、令和5年12月1日に施行されたばかりであるが、矯正と更生保護の本制度についての実施状況が示されている。
矯正における同制度開始後の令和5年12月から令和6年末までの利用件数は、刑事施設においては、申出の受理が107件、聴取実施が100件、伝達実施が92件であり、少年院においては、申出の受理が40件、聴取実施が40件、伝達実施が37件であった。加害者の罪名・非行別の実施状況によれば、刑事施設では、詐欺が全体の2割強を占めて最も高く、ついで過失運転致死傷等、殺人の順であった(7-3-2-4図)。少年院では、傷害・暴行が全体の3割弱を占めて最も高く、次いで強盗、不同意性交等であった。被害額が大きく被害者にも大きな損害を与える詐欺や、死亡や重大な障害を伴う過失運転致死傷等、危険運転致死傷、殺人などは被害感情も強く、刑事施設での件数に表れているように思う。
一方、更生保護における同制度の利用件数は平成26年以降150件台から180件台で推移しており、罪名・非行名別構成比によれば、詐欺が全体の3割を占めて最も高く、次いで傷害・暴行、窃盗の順であった(7-3-3-6図)。
矯正と更生保護の同制度を比較すると、利用件数については、矯正は、開始から1年で、まだまだ制度の周知や加害者処遇への反映など試行錯誤している点を鑑みても、ある程度の利用があったのではないだろうか。一方、更生保護の同制度については、制度開始から15年以上経過し、利用率の低さなども指摘され5、令和4年にも法改正がなされているにもかかわらず、ほとんど件数の増加は見られなかった。罪名・非行名については、詐欺以外の犯罪については、より重大な犯罪は刑事施設等に収容される可能性が高いため、被害感情の強さという点で差異が生じているのだろう。両制度については、利用者が少ないことの要因として、被害者が利用したくてもできないためか、それとも利用できること自体知らないためかなどを分析し、利用を促進していくことが重要だろう。
4 意見等聴取制度
意見等聴取制度は、加害者の仮釈放や少年院からの仮退院に対して、被害者が申し出れば、地方更生保護委員会に対して意見の聴取を希望できる制度である。聴取件数は、平成25年以降概ね300件台で推移している(7-3-3-3図)。罪名・非行名別構成比は、刑事処分を受けた加害者については、詐欺が全体の2割強を占めて最も高く、次いで過失運転致死傷、傷害・暴行の順であった。前述した心情等聴取・伝達制度と同様、被害者の処罰感情や被害の重大さの中でも、仮釈放が認められやすい犯罪が多いように感じる。
なお、被害者が仮釈放時に意見した後、仮釈放後、保護観察でも心情等聴取・伝達制度を利用するのが自然なように思うが、この二つの実施件数の数値は連動しておらず、意見等聴取制度の方が多い。この背景として、仮釈放が認められず満期釈放になった際には、加害者は保護観察の対象となることはなく、その被害者は、心情等聴取・伝達制度は使えないことも影響しているように思う。
Ⅳ 2つ特別調査の結果より
本特集では、2つの犯罪被害の実態に関する特別調査を行い、分析を行っている。1つは、広く国民を対象に、警察に認知されなかった犯罪や被害者と被害の実態に関する情報を得る目的で実施された犯罪被害実態(暗数)調査であり、令和6年には、第6回調査を行った(以下、「特別調査①」とする)。
もう1つは、暗数調査では、被害の実態を具体的に解明することが困難な精神障害者に焦点を当て、刑事確定記録調査を元に、精神障害を有しない性犯罪被害者と比較して、その傾向と特徴の分析を行った調査(以下、「特別調査②」とする)である。ここでは、これらの2つの特別調査の結果を分析することとしたい。
1 犯罪被害の暗数
被害態様別の過去5年における被害率をこれまでの6回の調査回別に経年比較したものを見ると、多くの被害態様で、第6回調査の被害率が一番低くなっていたが、各種詐欺等被害だけは、他の被害態様と傾向が異なり、第6回調査の被害率が最も高くなっていた(7-4-3-1図)。ただ、各種詐欺等被害については、被害申告率は、前回より上昇しているものの、令和6年においても約5人に1人とかなり低く、他にも、性的な被害が約4人に1人、ストーカー行為が約3人に1人、DV が約6人に1人と低くなっている(7-4-3-3図)。これら、被害申告が低い①性的な被害、②各種詐欺等被害、③ DV・ストーカーについては、本特集第2章の犯罪被害の動向でも特徴が表れていた。暗数調査における定義と我が国の法律上の犯罪類型とが必ずしも合致しない点で、安易に比較するには留意が必要であるが、これらについて被害申告率の低さの背景にある被害不申告の理由を分析することは、犯罪被害の実態を明らかにする上での一助となるであろう。
そこで、次に、これらの被害態様における被害不申告の理由をみてみる(7-4-4-1図)。
①性的な被害については、第6回調査では「それほど重大ではない」だけが4割となり、他の理由は約20~27%と、複数の理由に分散する傾向がみられた。ただ、「加害者の処罰を望まなかった」の理由には該当がなかったことから、被害申告していないからといって、処罰を望んでないわけではないことがうかがえる。コラム7では、認知件数が令和3年以降増加が続いているにも関わらず、被害率は低い数値で推移していることから、近年では、認知件数の数十倍の被害が存在する可能性がうかがわれたと指摘されており、今後どのように被害が顕在化してくるかについて、しばらく推移を見守る必要があるだろう。
②各種詐欺等被害については、「それほど重大ではない」が4割強を占めていたが、クレジットカード情報詐欺だけは、「カード会社に知らせた」が約9割と突出して高かった。これらは、金銭的な賠償や補償によって、経済的損害が回復していたり、経済的な損害が甘受できる程度の被害の大きさにとどまる場合などに、被害申告しなかった可能性が指摘されている。
③ DV・ストーカーについては、どちらも「自分又は家族による解決」が5割以上で、捜査機関に頼ることなく問題の解決を図ろうとする傾向が表れていると述べられている。しかし、これらの犯罪類型については、たびたび社会的にも問題になった事件も起きており、白書も指摘しているように、加害者の被害者に対する執着心や支配意識が非常に強く、被害者やその家族に重大な被害に発展するおそれも大きいため、迷わず警察や被害者支援機関に相談するように周知することが重要だろう。しかし、被害者の視点に立ってみれば、事案の内容によっては、家族や知人間での被害であるため、このぐらいのことで相談していいのかと迷ってしまう被害者心理も理解できる。そのため、被害申告の前に、そもそも警察から見ても被害申告するような事案なのかも含めて相談できる警察相談専用電話 「#9110」などの利用を促すなど、今後は被害申告に対するハードルを下げる取り組みも必要と考える。
2 精神障害の有無と性犯罪被害の特徴
特別調査②では、精神障害あり群と精神障害なし群(以下「あり群」「なし群」とする。)を比較している。今回対象となったあり群は176人のうち、7割以上が知的障害で、2割程度が発達障害であった。調査によれば、なし群については、夜20時〜深夜2時ごろまでで、屋外が多いのに対して、あり群は、日中や夕方の時間帯で、学校、就労先、療養所、デイケア施設が最も多く、それらの施設へのバス等の乗り物や屋外なども割合が高かった。加害者の特徴は、なし群はその6割が「面識なし」で、年齢層は20~30歳代等の比較的若い年齢層が多いのに対して、あり群は、支援関係者が約3割と最も多い上に、年齢層は40歳代及び65歳以上が多くなっている(7-5-2-6図)。また、被害当時の被害認識については、なし群は約8割が認識していたにも関わらず、あり群では、認識不十分と認識なしが6割を占めていた(7-5-2-7図)。
特別調査②で注目すべきは、反復して被害を受けるまで被害申告できなかった理由である。あり群では、加害者が親族の場合には、加害者から口止めされ、周囲との人間関係等から言えないことが多く、教育関係者・雇用主・支援関係者の場合には、被害に関する認識が欠如・不足していたが7割以上と最も高かった。これに対して、なし群の約8割程度は被害を認識しており、加害者が親族の場合には、同じように人間関係等から言えなかったが多いが、教育関係者等については、口止めされていたが6割以上であった。
この点、白書では、児童や精神障害を有する性犯罪被害者の場合、性被害に関する認識が十分でなく、そこを加害者からつけ込まれるリスクが指摘された。被害者自身だけでなく、その周りの関係者にも、どういう場合は性被害になるのかなど認識を持ってもらい、被害申告による二次被害がないことも含めより周知していかなければならないだろう。
Ⅴ 被害者に対する司法面接的手法による代表者聴取
1 司法面接的手法による代表者聴取の概要
代表者聴取とは、児童が被害者又は参考人である事件について、児童の負担軽減及び児童の供述の信用性の確保の観点から、検察庁・警察・児童相談所が聴取方法について協議を行い、これらの機関のうち代表者が児童から聴取を実施する取組である。平成27年10月から実施されている。この代表者聴取では、いわゆる司法面接的手法を活用して、心理学的知見に基づき、暗示・誘導を受けやすい児童の供述特性を踏まえ、記憶の汚染を防ぐとともに、二次被害等を防止するため、録音録画下において、被害者からできるだけ早い時期に、できるだけ少ない回数で、児童からの自由報告を基本とした聴取を行っている。
また、検察・警察では、政府による性犯罪・性被害対策の強化の方針を踏まえ、性犯罪被害者に対する事情聴取の在り方をその供述の特性や心情等により配慮したものとするため、令和3年4月からは、知的障害等の精神に障害を有する被害者に係る性犯罪事件においても、司法面接的手法を用いた代表者聴取が試行されている。
実際に児童に対する聴取を行う代表者は、司法面接的手法のプロトコルを踏まえ、短時間の面接により各機関が聴取すべき事項をまとめて聴取し、代表者以外の者は、別室で聴取状況をモニターで見ながら、必要に応じて補充質問事項を伝えるなどして実施している。この司法面接的手法のプロトコルには、さまざまなプロトコルが存在するが、共通するものとして、誘導質問の原則禁止、早期短時間の面接、児童がリラックスして話しやすい関係性(ラポール)の形成の重要性、相互評価と継続訓練の重要性であるとされる。
なお、令和5年に刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律が制定され、一定の要件の下で、この代表者聴取の録音録画記録媒体の証拠能力を認めうる規定として刑事訴訟法321条の3が新たにが創設された6。
2 実施状況
児童を対象とする代表者聴取の実施件数は、平成28年は306件であったが、令和5年は3,386件と約11.1倍に増加している(7-3-1-2図)。これらの実施件数は、主に検察・警察・児童相談所の三者連携か、検察・警察の二者連携に分けられ、三者連携が全体の6〜7割を占めている。コラム5によれば、家庭内の虐待事件の場合には三者連携になり、第三者による被害の場合には二者連携となることが多いようだ。年齢別では、2歳から17歳ごろまで実施されているが、その中でも7歳から11歳までが他の年齢より多く、犯罪種別は性犯罪が約6割を占めて高い(7-3-1-3図)。また、令和6年度版白書のコラム3によれば、令和4年度の 実施件数は2,722件7であり、令和5年にかけて1年で500件程度も増えている。令和5年の改正は、12月に施行されている点からも、数値の評価にはまだ留保が必要であろうが、制度導入に向けた実務的な準備や、現場レベルでの対応意識の変化等が、一定程度件数に反映された可能性があると考えられる。
精神障害を有する性犯罪被害者を対象とする代表者聴取の年齢別の実施件数は(7-3-1-4図)、13歳から17歳までは30〜40件程度で他の年齢より多く、9歳から12歳までが概ね20件程度であった。なお、精神障害を有する性犯罪被害者については、18歳以上の場合でも、件数は多くないが実施されており、30歳台でも実施がなされている。障害種別では、重複もあるが、60%弱が知的障害、35.6%が発達障害、20%弱が精神障害に該当した。
3 特別調査②から見る司法面接的手法による取調べの課題
特別調査②における、代表者聴取の実施状況については、あり群が44.3%、なし群(18歳未満のみ)が39.9%である(7-5-2-13図)。また、あり群の方が司法面接的手法による取り調べが幅広い年齢の被害者に対して実施していた(7-5-2-14図)。
特別調査②で注目すべきなのは、実施までの期間についてである(7-5-2-13図)。犯行発覚から1ヶ月以内に実施があり群17.2%、なし群19%で構成比が最も高く、ついで犯行発覚から1週間以内に実施の順だった。ただ1ヶ月以上後に実施も、あり群で9.8%、なし群7.2%である点は、注意が必要であろう。令和5年の改正により証拠能力を認める場合、これだけ期間が経過してしまうとその供述が聴取前に汚染されたものと判断される可能性もあるのではないだろうか。聴取までの間に被害者がいつ誰にどのように話したのかが、裁判で問題となる可能性もある。特に最初に被害を伝えた相手は、あり群の場合、親族が47.8%で、学校・勤務先・支援関係者が32.2%で、全体の約8割を占め、なし群でもその両者に加えて知人・友人を含み約7割以上であり、捜査機関は3割も満たない(7-5-2-12図)。前述したようにあり群では、認識自体不十分や認識がない場合もある上、約3割程度は被害申告自体がないため(7-5-2-11図)、刑事事件化されるまでの過程で、捜査関係者以外が関わる可能性も高い。そのような被害者の親族や支援関係者が、捜査機関に被害を申告する前、事実を確定させるために事件について根掘り葉掘り聞いてしまうこと可能性も容易に想像できる。白書では、これらの親族や支援関係者等に、内部的な聞き取りよりも捜査機関への通報を優先してもらい、少しでも捜査機関への犯行発覚までの期間を少しでも短縮することが重要であると指摘している。ただ、親族や支援関係者も、まさか被害に遭うとは思っていない場合も少なくない中で、被害者から話を聞かずに捜査機関に申告するという判断を行うのは容易ではないだろうか。司法面接的手法が教育現場におけるいじめや事故などでも活用がされていることを鑑みれば、事件化する場合に限らず、支援施設や学校、家庭においても、被害者が児童であったり、精神障害がある性犯罪被害者の場合には、被害申告の前に事前にどう対応すべきか相談するような仕組みづくりの検討も必要になるように思う。
Ⅵ おわりに
本特集は、25年ぶりに白書で犯罪被害について取り上げられたものであるが、この間に推し進められてきた被害者施策等と合わせて、性犯罪に関連する法改正や、社会的に被害が問題になった詐欺、DV、ストーカーなどが犯罪被害の実態に影響を与えていることがわかった。また、特別調査などの結果から、被害者はその経験した被害の態様、精神障害の有無を含む属性、直面している困難な状況などは多岐に渡ることが示された意味でも、本特集は、被害者の個々の事情に一層配慮した更なる支援のあり方を考える上で、重要な知見を提供するものとなっている。これらの調査結果を活用し、被害者を取り巻く法整備が日々変化している中で、被害態様だけでなく、そのニーズ等もバラバラな被害者にとっても意味のある刑事司法となるようへ改善していくことが重要だと考える。
(京都先端科学大学経済経営学部准教授)
注
1 警察庁「基本計画策定・推進専門委員等会議 開催状況」
〈https://www.npa.go.jp/hanzaihigai/sakutei-suisin/index.html〉。
〈https://www.npa.go.jp/hanzaihigai/sakutei-suisin/index.html〉。
2 ただ、不同意性交等と不同意わいせつについては、強姦、強制性交等、強制わ
いせつなどの改正前の規定と改正後の監護者性交等、監護者わいせつも含んだデー
タであることに留意が必要とも指摘している。
3 犯罪対策閣僚会議「国民を詐欺から守るための総合対策 2.0(令和7年4月22日)」
〈https://www.kantei.go.jp/jp/singi/hanzai/kettei/250422/honbun-1.pdf〉。
〈https://www.kantei.go.jp/jp/singi/hanzai/kettei/250422/honbun-1.pdf〉。
4 SNS 型投資・ロマンス詐欺とは、これらのSNS 等を通じて対面することなく、交信を重ねるなどして関係を深めて信用させ投資や恋愛感情を利用して金銭を騙し取る詐欺をいう。警察庁・SOS47 特殊詐欺対策ページ「SNS 型投資・ロマンス詐欺」
〈https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/sos47/new-topics/sns-romance/〉。
〈https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/sos47/new-topics/sns-romance/〉。
5 これらの制度の利用率が低いことについては、「更生保護の犯罪被害者等施策の在り方を考える検討会」報告書でも指摘されている。「更生保護の犯罪被害者等施策の在り方を考える検討会」報告書
〈http://www.moj.go.jp/content/001316243.pdf〉。
〈http://www.moj.go.jp/content/001316243.pdf〉。
6 改正内容や議論については、堀江慎司「被害者等の供述の聴取に係る録音録画記録の証拠能力−法制審議会部会における議論の検討」法律時報 95巻11号(2023)90頁以下、川出敏裕「被害者等の聴取結果の録音・録画記録媒体の規律」法律時報 96巻11号(2024)24頁以下を参照した。
7 この件数に精神障害がある性犯罪被害者も含まれるのは定かではない。