日本刑事政策研究会
受賞者発表
刑事政策に関する懸賞論文募集の結果について
 一般財団法人日本刑事政策研究会と読売新聞社は,住み良い社会を作り上げるために刑事政策思想の普及が特に重要であるとの観点から,刑事政策に関する懸賞論文を募集しています。
 平成26年度の論文題目は「刑の一部の執行猶予制度の運用の在り方」であり,その募集は平成26年5月に開始され,同年8月29日をもって締め切られました。
 応募いただいた論文については,各審査委員による厳正な個別審査を経て,平成26年11月12日に開催された審査委員会で,受賞者が選定されました。その結果は,次のとおりです。
優秀賞(1名) 町田 亜希(作新学院大学経営学部 3年)
論文題目 「薬物使用者の社会内処遇におけるスポーツ分野による介入の提唱」
佳作(3名) 副田 将之(大阪市立大学大学院法学研究科法曹養成専攻 修了)
論文題目 「性犯罪者に対する刑の一部執行猶予の運用について」
松尾 剛行(北京大学法学院中国法修士課程 2年)
論文題目 「『刑の一部の執行猶予制度の運用の在り方』に関する一考察
〜刑の一部の執行猶予制度の適用対象者論〜」
中村 早希(三重大学人文学部 3年)
論文題目 「日本での社会貢献活動の実施について」
 なお,受賞者に対する表彰式は,平成27年1月21日,法曹会館において行われ,優秀賞には,当研究会から賞状及び賞金20万円が,読売新聞社から賞状と賞品がそれぞれ授与され,また,佳作には,当研究会から賞状及び賞金5万円が授与されました。
 以下に,優秀賞受賞した論文(全文)及び佳作を受賞した論文(要旨)を掲載いたします。
平成26年度表彰式
平成26年度受賞作品
優秀賞薬物使用者の社会内処遇におけるスポーツ分野による介入の提唱(町田 亜希)」
佳作性犯罪者に対する刑の一部執行猶予の運用について(副田 将之)」
佳作『刑の一部の執行猶予制度の運用の在り方』に関する一考察〜刑の一部の執行猶予制度の適用対象者論〜(松尾 剛行)」
佳作日本での社会貢献活動の実施について(中村 早希)」
優 秀 賞
薬物使用者の社会内処遇における
スポーツ分野による介入の提唱
町田 亜希
1. はじめに
 近年,一般刑法犯により検挙された者のうち,再犯者率は上昇傾向にある。罪名別の出所受刑者の出所事由別5年以内累積再入率においては,覚せい剤取締法違反によるものが高いことが目立つ。これらをふまえ,薬物使用者の再犯防止のための処遇の在り方について再度検討がなされるべきである。
 「薬物使用者に対する刑の一部の執行猶予制度」の導入により,社会内処遇の十分な期間の確保が可能となった。薬物使用者の改善更生,再犯防止を図るためには,この制度における,社会内処遇の期間の確保という特有性から,薬物使用者を漸次的に社会に適応させることができるという利点を生かす必要がある。社会内処遇によって,薬物使用者の生活が,個人の人格形成に利益的である生活様態が習慣化されることが適当である。そのために,社会内処遇では,再犯防止及び薬物使用者の薬物使用による精神と身体の回復を図りつつ,社会復帰に向け,薬物使用者の身体と精神に利益的な活動の習慣化を支援すべきである。精神と身体の健康に不可欠なものとして,スポーツ活動(実技だけでなく,スポーツ心理学や運動生理学等,スポーツ学の活用を含むものとする)が考えられる。一般的に,スポーツ活動は実技による健康増進にばかり効果があると思われがちであるが,実際には健康管理機能に限らず精神的充足感,自己創造的機能をも有しており,日常における行動変容にも効果がある。このような点から,薬物使用者に対してもスポーツ活動を導入すべきではないだろうかと考える。
 以上のことから,薬物使用者にとって社会内処遇がより効果的であるために,保護観察へのスポーツ分野の介入を提案する。なお,本稿で用いるスポーツに関する語について,以下を定義づけしておく。1)「健康運動指導士」とは,「個々人の心身の状態に応じた,安全で効果的な運動を実施するための運動プログラムの作成及び指導を行う者」をいい(以下,健康運動指導士と呼ぶ),「健康運動実践指導者」とは,「積極的な健康づくりを目的とした運動を安全かつ効果的に実践指導できる能力を有すると認められる者」を指す(以下,健康運動指導者と呼ぶ)。2)彼らによるスポーツ活動の指導を,「スポーツ指導」と呼ぶ。3)スポーツ(実技)だけでなく,軽いエクササイズや日常生活における身体活動を「運動」と呼ぶ。4)スポーツ活動に加え,上記の1),2),3)を総称して,「スポーツ分野」と呼ぶ。
2. 薬物使用に関する実態とスポーツ分野の介入の必要性
 覚せい剤取締法違反の検挙人員の推移は,毎年1万人を超えている。薬物使用者に対する社会内処遇は,社会内の如何なる機会においても薬物使用の誘惑,誘引を薬物使用者が自ら超克するために,強制的に薬物使用が絶たれる施設内ではなく,敢えて社会内での処遇を行うことが重要な意味を持つ。薬物使用者の社会内処遇を重視し,その期間を確保する制度として提案された制度が「薬物使用者に対する刑の一部の執行猶予制度」である。この制度の導入により,社会内処遇の十分な期間の確保が可能となった。
 今日の社会では,薬物事犯のグローバル化による薬物の密輸や密売手段の巧妙化から,薬物が拡散している状況が見られている。社会内処遇において薬物使用者が薬物の蠱惑に負けず,改善更生,再犯防止を目指していく過程の阻害要因としては,特に危険ドラッグの使用が考えられる。危険ドラッグは,現在インターネット上での販売もなされており,その入手のしやすさと依存性や毒性から,再び薬物使用へと繋がる可能性がある。有害性は覚せい剤等の規制薬物と変わらず,使用によりあらゆる面で影響を及ぼす。薬物は使用の中止後も後述のような症状が残ることがある。1つは,後遺症として,健康障害と精神障害が残ることである。もう1つは,薬物使用に対する欲求が,何かをきっかけに突如生ずる可能性である。これらのことは,再犯の可能性のみならず,薬物の幻覚作用や興奮作用による事件・事故の発生や,薬物入手のために犯罪に手を染めるといった社会への影響も懸念される。薬物が,薬物使用者ないし社会に及ぼす影響は深刻であることから,「薬物使用者に対する刑の一部の執行猶予制度」における保護観察は,改善更生及び再犯防止のために極めて重要な役割を果たすはずである。薬物使用者の身体的・精神的・社会的な保護という観点から,スポーツ分野では,スポーツ競技における薬物使用,いわゆるドーピングに対しての予防策がなされている。スポーツ分野で用いられる対策を,刑事政策において導入することは可能であろうか。薬物使用者が,健康障害或いは精神障害を有した上での日常生活を送ることは容易ではなく,特に健康障害において,薬物による各器官への悪影響に加え,身体活動機能の低下が考えられる。これらを解消するためには,スポーツ活動が健康障害及び精神障害のどちらにも効果的であることから,社会内処遇においてスポーツ活動を導入すべきではないだろうか。このような点から,保護観察におけるスポーツ分野の導入を提案し,その理由を以下に示す。
 アスリートが行うスポーツ競技における興奮剤や麻薬の使用をドーピングといい,その予防策として,ドーピング検査が大きな役割を果たしている。このドーピング検査を保護観察において用いることは,薬物使用者の再犯防止に対しても効果的であると考える。スポーツ(実技)は,人格形成に多大な影響を与える教育的機能を有している。爽快感・目標達成感などの精神的充足感や健康管理機能に限らず,自己開発や自己創造の機能をも有している。心理的効果として,ストレスの軽減や性格変容の可能性をもたらす。さらに,スポーツ分野では,身体の健康と心の健康のバランスが重視されており,身体の健康増進・疾病予防とともに心の健康に効果がある。よって,薬物使用者の改善更生,再犯防止を図るためには身体の健康のみならず心の健康を重視することは不可欠である。このことからも,スポーツ活動の実施が妥当であると考える。

3. 具体例と期待できる効果及び問題点
 スポーツ分野を用いた具体例を3つ示す。すなわち,1)スポーツ競技において実施されるドーピングコントロール(ドーピング検査)を行い,再犯防止を図る,2)トランスセオレティカルモデル(以下,TTMと略称する。スポーツ心理学の分野であり,人の行動を変えるために用いられる)による現状把握と明確な目標の設定により自己改善を図り,再犯防止・社会復帰へと繋げる,3)スポーツ指導による運動実施を試み,身体の健康と心の健康の回復を図り,再犯防止・社会復帰へと繋げる。
 1)スポーツ競技においてはドーピングとして,興奮剤や麻薬等の薬物の使用(血液ドーピングを含む)は禁止されているが,それは単なるフェアーなスポーツ精神に反するからということだけではない。個人の健康を害すること,習慣性により社会悪を生むことからも禁止されている。後者は,薬物の習慣性・依存性は身体の健康だけでなく精神の健康も乱すことがあり,それらが凶悪犯罪を含むさまざまな社会悪を生むとされている10。スポーツにおけるドーピング違反については,ドーピング検査がなされ,陽性の場合には処分を受ける。以前行われていたドーピング検査は,実際の競技において実施されていたため,ドーピング方法によっては使用の証明が困難である(被検査者はドーピング検査の日付を既知であるために,その当日に陽性反応が出ないよう調整する方法が存在するため)ことがあった。しかしながら,今日におけるドーピング検査は,日常的に(実施の日時が被検査者には知らされておらず不特定であり,練習や普段の生活の場でも抜き打ち的に行われ,これを拒否することはできない)実施されるようになり,ドーピングの予防に大きな役割を果たした。薬物使用者の保護観察においては,被検査者にあらかじめ実施日時を告げることなく,検査を不特定数回実施することにより,再犯防止の効果が大いに期待できると考えられる。個人及び社会の保護のためにも,薬物使用は早期発見がなされることが望ましい。しかしながら,検査の実施には費用がかかるだけでなく,検体の採取には被検査者と同性の立会(ドーピングコントロールオフィサー)が必要である。早期発見に繋がった場合においても,その処遇はどういったものであるべきかといった,実施のための課題が残る。
 2)TTMとは,人の行動変容に関して実用的なアプローチの1つであり,このアプローチはすでに喫煙の分野で支持を得ている11。このTTMはステージ理論とも呼ばれ,後述する5つのステージによって,人の行動変容のサイクルを表している。
 a)前熟考ステージ−これから6か月以内に今よりも活動的になる意図がない,b)熟考ステージ−これから6か月以内に今よりも活動的になることを考えている,c)準備ステージ−すでに活動を行うプランを持っている,または何かの運動を行うつもりであるが,アクティブ・リビングのためには最低限の基準に十分適合してはいない,d)実行ステージ−このステージに属する人々は定期的な運動者になっているが,まだ始めて6か月以内である。e)維持ステージ−定期的に運動を行っており,しかも6か月以上続けている12
 TTMを用いることは,上記の5つのステージにおける現在の位置づけの認識といった現状把握,次のステージに進むためにどうすべきかといった目標設定,理想のライフスタイルを熟考する機会となる。各ステージにおいて行動を起こしたことや目標を達成したことは個人の自信(セルフエフィカシー)及びその構築に大きな役割を果たす。このTTMは,実際にTTMによる自身の位置づけを試みる者が,スポーツに関する知識を有する必要はなく,スポーツに限らず既に喫煙や食習慣,運動習慣の改善等,あらゆる行動変容に使用されている。このようなことから,薬物使用者に対しても使用は十分に可能であり,その効果は期待できると考えられる。行動変容にはある程度の時間を要するため,TTMは定期的な使用が肝要である。社会内処遇の十分な期間の確保によって,保護観察におけるTTMの定期的な使用機会を設けることは可能であり,薬物使用者の自己改善,理想のライフスタイルの創案を促すことが適当である。
 3)スポーツ指導は,薬物使用者が運動を実施する上で不可欠である。運動は,むやみに行うと外傷の恐れがある。実施には,トレーニングの原理・原則(運動生理学において,安全且つ効果的な運動実施のための3つの原理と,5つの原則を定めたもの)を遵守する必要があるが,薬物リハビリテーションとして運動を実施するには,後述のように薬物使用者特有の問題から,個人での運動実施を促すことは困難を極める。薬物使用者は,薬物使用を中止したことによる影響によって,ある時期にはまったく運動を行えなくなったり,運動施設に行くことができなくなったりする可能性がある13。運動実施の心理的効果を得るには,薬物使用者にとって,運動が強迫的行動,すなわち,運動依存に陥ることのないことが絶対的条件である。これらをふまえ,薬物使用者が実施する運動は,体の健康と心の健康を図るための知識を有している上,健康増進・疾病予防等に効果的なプログラムを提案・実施することのできる健康運動指導士及び健康運動指導者による指導の下で実施されることが好ましい。

4. スポーツ指導と生涯スポーツの定着化による再犯防止の可能性
 健康運動指導士及び健康運動指導者の登録者数は,平成26年6月1日現在,前者が17,404人,後者が20,305人である14。今般の医療制度改革においては,一次予防(健康増進・疾病予防)に溜まらず二次予防(早期発見・早期対処)も含めた健康づくりのための運動を指導する専門家の必要性から,健康運動指導士への期待が高まっている15。健康運動指導者は自ら見本を見せる実技能力と特に集団に対する運動指導に長けていることから,健康運動指導士と両輪となって生涯を通じた国民の健康づくりに貢献してきた16。今日,健康運動指導士及び健康運動指導者は,フィットネスクラブをはじめ,診療所や保健福祉施設等でも活躍している。スポーツ指導は,個々の年齢や身体状況に応じたプログラムの提案がなされることから,薬物使用者においても実施は可能であると考える。適切な運動の実施により,身体の健康と心の健康が図られるだけでなく,保護観察において積極的に実施・継続を促すことで薬物使用者の運動実施の習慣化が期待できる。運動実施の効果を得るには継続的な実施が肝要である。また,運動の習慣化にはある程度長期の時間を要し,個人で行うことも難しいことから,社会内処遇の期間において習慣・ライフスタイルの創案をおおよそ確立させてしまうことが妥当である。
 生涯スポーツとは,「いつでも,どこでも,誰でもスポーツに親しむ」,という,ライフスタイルにスポーツを取り入れるという趣旨のものである。スポーツは人格形成に大きな影響をあたえ,健康増進・精神的ストレスの低減にも効果があることから,薬物使用者にとっても不可欠である。スポーツ指導により早期の段階で習慣化させることで生涯スポーツの定着化を図ることができれば,余暇時間の活用により再犯防止の役割を果たしうる。そして,十分な社会内処遇に引き継き,生活水準の向上や個人の生きがいとなることが望ましい。

5. まとめ
 本稿では,薬物使用者の社会内処遇について,改善更生,再犯防止のためにスポーツ分野の介入が効果的であることを述べた。ドーピング検査の実施及び実施後の処遇の在り方や,薬物使用者特有の症状を考慮した運動プログラムの必要性といった課題はあるものの,スポーツ分野の有する予防策,自己改善といった刑事政策的意義は重要であるように思われる。

参考文献
  1. ・法務省法務総合研究所編『平成25年版犯罪白書─女子の犯罪・非行─グローバル化と刑事政策』
     (http://www.moj.go.jp/housouken/housouken03_00070.html)(2014年8月8日確認)。
  2. ・公益財団法人 健康・体力づくり事業財団『健康運動実践指導者養成用テキスト』南江堂(2009年)。
  3. ・森本正彦『刑の一部の執行猶予制度・社会貢献活動の導入に向けて』
     (http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2011pdf/20110701059.pdf
     (2014年8月8日確認)。
  4. ・警視庁『薬物に関するデータ』
     (http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/seian/yakubutu/toukei.htm)(2014年8月8日確認)。
  5. ・黒川國児=浅沼道成=清水茂幸『改訂 生涯スポーツ概論』中央法規出版(2004年)。
  6. ・磯貝浩久「運動と心の健康」平木場浩二=磯貝浩久=稲木光晴=下園博信=西村秀樹
     『現代人のからだと心の健康』杏林書院(2006年)。
  7. ・武藤芳照=村井貞夫=鹿倉二郎『スポーツトレーナーマニュアル』南江堂(1996年)。
  8. ・スチュワートJ. H.ビドル=ナネットツムリ著 竹中晃二,橋本公雄 監訳
     『身体活動の健康心理学 決定因・安寧・介入』大修館(2005年)。
  9. ・公益財団法人 健康・体力づくり事業財団『健康運動指導士・健康運動実践指導者』
     (http://www.health-net.or.jp/shikaku/)(2014年8月14日確認)。

  1. 1 法務省法務総合研究所編『平成25年版犯罪白書─女子の犯罪・非行─グローバル化と刑事政策』
      (http://www.moj.go.jp/housouken/housouken03_00070.html)日経印刷(2013年)29頁−31頁(2014年8月8日確認)。
  2. 2 公益財団法人 健康・体力づくり事業財団『健康運動実践指導者養成用テキスト』南江堂(2009年)3頁。
  3. 3 公益財団法人 健康・体力づくり事業財団・前掲注2・3頁。
  4. 4 法務省法務総合研究所編・前掲注1・34頁。
  5. 5 森本正彦『刑の一部の執行猶予制度・社会貢献活動の導入に向けて』
      (http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2011pdf/20110701059.pdf
      (2014年8月8日確認)69頁,70頁。
  6. 6 警視庁『薬物に関するデータ』
      (http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/seian/yakubutu/toukei.htm)(2014年8月8日確認)。
  7. 7 黒川國児=浅沼道成=清水茂幸『改訂 生涯スポーツ概論』中央法規出版(2004年)14頁。
  8. 8 磯貝浩久「運動と心の健康」平木場浩二=磯貝浩久=稲木光晴=下園博信=西村秀樹
      『現代人のからだと心の健康』杏林書院(2006年)122頁。
  9. 9 武藤芳照=村井貞夫=鹿倉二郎『スポーツトレーナーマニュアル』南江堂(1996年)53頁,54頁。
  10. 10 武藤芳照=村井貞夫=鹿倉二郎・前掲注9・53,54頁。
  11. 11 スチュワートJ.H.ビドル=ナネットツムリ著 竹中晃二,橋本公雄 監訳
      『身体活動の健康心理学 決定因・安寧・介入』大修館(2005年)236頁。
  12. 12 スチュワートJ.H.ビドル=ナネットツムリ著 竹中晃二,橋本公雄 監訳・前掲注11・236-237頁。
  13. 13 スチュワートJ.H.ビドル=ナネットツムリ著 竹中晃二,橋本公雄 監訳・前掲注11・204頁。
  14. 14 公益財団法人 健康・体力づくり事業財団『健康運動指導士・健康運動実践指導者』・「健康運動指導士登録状況」,
      「健康運動実践指導者登録状況」
      (http://www.health-net.or.jp/shikaku/)(2014年8月14日確認)。
  15. 15 公益財団法人 健康・体力づくり事業財団・前掲注14・「健康運動指導士とは」。
  16. 16 公益財団法人 健康・体力づくり事業財団・前掲注14・「健康運動実践指導者とは」。
(作新学院大学経営学部3年)

佳作
性犯罪者に対する刑の一部執行猶予の運用について
副田 将之
要旨
 平成25年6月13日の国会における刑法等の一部を改正する法律案の可決により,新たに刑の一部執行猶予という制度が導入される。これは,裁判において言い渡される刑のうち,その一部の執行を猶予し,猶予されなかった刑の部分の執行に続く一定の猶予期間を設定し,一部執行猶予が取り消されることなく猶予期間を経過した場合に猶予刑の効力を失わせ,実際に服役した分の刑期に相当する刑に減刑するというものである。この制度は基本的には刑務所に初めて入る者を対象にするものであって,罪種での限定はない。そこで,本稿では,各地で犯罪対策の一環として性犯罪への対策が議論されており,また国民の間での関心も高いことから,性犯罪の再犯防止に刑の一部執行猶予を用いる場合を取り上げる。
 性犯罪については,すでに平成18年度より矯正と保護の両部門において性犯罪者処遇プログラムが運用されており,一定の効果を示しているとされる。刑の一部執行猶予を効果的なものにするためには,この性犯罪者処遇プログラムの活用が不可欠である。そこで,性犯罪のうちでも刑の一部執行猶予制度が適用される可能性の高い,公然わいせつ,強制わいせつ,強姦,各都道府県の迷惑防止条例のそれぞれについて,受刑期間に応じたプログラムを構築することや,対象者の犯行態様に沿って矯正と保護が連携してプログラムを運用することなどで,再犯を防止していくことが考えられる。
 刑の一部執行猶予は,実刑を伴うことから,これまでならば全部執行猶予であったはずの者には適用されないとの意見がある。しかし,性犯罪については,性犯罪者処遇プログラムが整備されていることを重視して,再犯防止と本人の更生のため,一部執行猶予制度を用いて,これまで対象とならなかった性犯罪者をこのプログラムに積極的に係らせていくべきであると考える。

(大阪市立大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了)

佳作
「刑の一部の執行猶予制度の運用の在り方」
に関する一考察
〜刑の一部の執行猶予制度の適用対象者論〜
松尾 剛行
要旨
 再犯者率の上昇に対応し,施設内処遇と社会内処遇の有機的な連携を図ることで犯罪者の改善更生を図るため,刑の一部の執行猶予制度が導入された。これにより,オールオアナッシング的きらいがあった従前の「実刑と執行猶予の境界線」の問題について,刑期の一部について施設内更生をさせた後,残部についてその刑を猶予し,社会内で更生させるという中間的処遇のオプションが増える。
 改正法の施行前である現段階における,一部執行猶予制度の運用のあり方に関する重要問題として,一部執行猶予の適用対象者の問題がある。これまで刑の全部について実刑とされてきた事案のみならず刑の全部の執行猶予とされてきた事案にも一部執行猶予制度が適用されるのであれば,重罰化につながるとして,一部執行猶予制度に懸念を示す見解もあり,その観点からは,一部執行猶予制度は従前全部実刑とされてきた事案に限定して適用されるべきことになる。反面,裁判官に選択肢を与えるという観点からは,従前どのように処遇された事案かに関わらず,裁判官の自由な量刑判断に委ねるべきことになる。
 理論的には,これまで全部実刑になっていた事案だけではなく,全部執行猶予になっていた事案であっても一部執行猶予になることはあり得る。しかし,従前全部執行猶予とされ得る事案で,一部執行猶予が適用され得る事案として実務的にあり得るのは,全部執行猶予にも実刑にもいずれにもなり得る「微妙な事案」が通常であるところ,そのような事案は,従前の基準において全部実刑にもなり得た事案といえるのであって,そのような事案に一部執行猶予を適用することにつき「厳罰化」との批判はあたらないだろう。

(北京大学法学院中国法修士課程2年)

佳作
日本での社会貢献活動の実施について
中村 早希
要旨
 平成25年の法改正により,刑の一部執行猶予制度と社会貢献活動制度が導入された。社会貢献活動は少年のみならず成人にも幅広く実施することとなったが,これにより様々な犯罪歴を有する者が社会貢献活動の対象者となるため,個々の対象者に適切な社会貢献活動を科すには,どのような人に対し,どのような内容の活動を行わせるのかが重要となってくる。本論は,社会参加活動や社会貢献活動の先行実施,外国の社会奉仕命令を参考にしながら,社会貢献活動の対象者と活動内容をどのように設定すべきか検討していくものである。
 まず,社会参加活動や先行実施では,福祉施設での介護や,環境美化活動等が行われ,活動に参加した参加者は自己有用感や達成感を感じており,これらの活動は効果的であったとみられる。
 次に,社会奉仕命令について,アメリカと韓国の例を取り上げたが,どちらの国でも,犯罪者の性格や犯罪歴等の様々な要因を考慮して対象者を選び,さらに対象者一人一人に相応な内容の奉仕命令を命じていることが分かった。また,対象者の特技に応じた奉仕命令を命じることもある。
 以上の制度を踏まえて,日本の社会貢献活動では,対象者の選定に関しては年齢や疾病等の人的特徴や,犯した罪について考慮する必要がある。また,活動内容については,社会参加活動や先行実施の際の活動を参考にし,福祉施設における介護や環境美化活動等を行うべきだと考える。さらに,社会奉仕命令の例を参考にして,対象者の性格や犯罪歴,特技等を考慮し,対象者一人一人に相応しい活動を命じるべきだと考える。
 今後行われる社会参加活動や先行実施についても実施結果の検証を続け,どのように対象者及び処遇内容を決定するのか,今後も更に検討し,対象者の更生意欲を高める社会貢献活動を実現させる必要があると考える。

(三重大学人文学部3年)