日本刑事政策研究会
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受賞者発表
刑事政策に関する懸賞論文募集の結果について
 一般財団法人日本刑事政策研究会と読売新聞社は、住み良い社会を作り上げるために刑事政策思想の普及が特に重要であるとの観点から、刑事政策に関する懸賞論文を募集しています。
 令和4年度の論文題目は「刑事政策の分野における情報通信技術の活用について」であり、論文の募集は令和4年5月に開始され、同年8月31日をもって締め切られました。
 応募いただいた論文については、各審査委員による厳正な個別審査を経て、令和4年11月16日に開催された審査委員会で、受賞者が選定されました。その結果は、次のとおりです。
優秀賞(1名) 菊地 愛佳(慶應義塾大学法学部法律学科2年)
論文題目 「更生マイアカウント創設で矯正と保護を一体的に」
佳作(3名) 松葉 篤俊(三重大学人文学部法律経済学科3年)
論文題目 「受刑者に対するオンライン教科指導の提言」
菊池 壮太(京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程1年)
論文題目 「「オンライン相談」を活かした地域非行防止の支援の構想」
栗原 佑介(筑波大学大学院人文社会ビジネス科学学術院法曹専攻2年)
論文題目 「犯罪予測 AIの普及に向けた社会的受容性に関する一考察
―海外における AI規制を中心に―」
 本年度の受賞者に対する表彰式は、新型コロナウイルス感染症拡大の状況を考慮し、残念ながら中止いたしました。
 なお、優秀賞には、当研究会から賞状及び賞金20万円が、読売新聞社から賞状と賞品がそれぞれ授与され、また、佳作には、当研究会から賞状及び賞金5万円が授与されました。
 以下に、優秀賞を受賞した論文(全文)及び佳作を受賞した論文(要旨)を掲載いたします。
令和4年度受賞作品
優秀賞更生マイアカウント創設で矯正と保護を一体的に(菊地 愛佳)」
佳作受刑者に対するオンライン教科指導の提言(松葉 篤俊)」
佳作「オンライン相談」を活かした地域非行防止の支援の構想(菊池 壮太)」
佳作犯罪予測 AIの普及に向けた社会的受容性に関する一考察―海外における AI規制を中心に―(栗原 佑介)」
優秀賞
更生マイアカウント創設で矯正と保護を一体的に
菊地 愛佳
1.はじめに
 刑事政策の分野で、近年最も重要視されている施策の一つが、再犯の防止である。令和3年版犯罪白書によれば、令和2年の再犯者率(刑法犯検挙人員に占める再犯者の人員の比率)は49.1%と増加傾向にある。受刑者の再入者率(入所受刑者人員に占める再入者の人員の比率)も、前年からは微減したものの、58.0%となった。依存性の高い犯罪や高齢者犯罪等の深刻化により、総犯罪者の半数を再犯者が占める中、再犯の防止こそが犯罪を減らすことにつながる。そこで、本論では、再犯の防止を主な目的とした、情報通信技術の活用法を考察する。

2.再犯の現状と更生保護
 令和2年の刑事施設への再入者のうち、男性の70.5%、女性の88.1%が再犯時に無職であり、男性の22.1%、女性の8.3%が住居不定である。 無職の者、住居不定の者の割合は、初入者と比べてかなり上昇している。したがって、再犯の防止には安定した職業と、定住環境の整備が役立つと思われる。
 2022年6月13日に国会で成立した改正刑法では、懲役刑と禁錮刑を一本化した、拘禁刑の制度が導入されることになった。更生にあたっては、能動的に自分の犯した罪を内省し、社会復帰に向けた学習や求職活動を通して、生活設計を策定することが望ましい。現在も様々な改善指導が取り入れられているが、人手・技術の不足から対象は一部にとどまる。また、刑務所と実社会の環境差は甚大であり、出所後の社会生活に適応できないことも指摘されている。刑務所内の処遇と社会復帰後の各種支援を継続させることが肝心だ。
 以上を踏まえ、本論では、受刑者へ向けたインターネット上のマイページ「更生マイアカウント」の創設を提案したい。以下の施策を通して、刑務所における更生プログラムや社会復帰支援から、出所後に向けた求職活動・支援団体への接続までを担う、一体的なオンラインサポートの実現を目指す。

3.更生マイアカウントの概要
 更生マイアカウントとは、刑務所の被収容受刑者に対して付与するオンラインアカウントである。現時点で、主な用途として、@ポートフォリオ作成、A個人の改善指導に合った動画教材の閲覧と進捗管理、B支援機関や就職先とのオンライン面談・職場見学とその記録管理、C保護司や関係各所とのチャット機能の4つを想定する。刑務所入所中から、社会内での更生までを継続的に支援するため、受刑者の基礎情報と各種コンテンツを収録する。
(1) 主なコンテンツと活用時期
入所直後を第一段階と定め、@ポートフォリオの作成を通して、犯罪に至った経緯を内省する時間を設ける。犯罪実行までの自分史を作成することで、犯罪に至った動機や幼少期の生活環境を振り返って言語化し、日々アップデートしていける仕組みを整える。矯正施設入所直後、受刑者は自分の問題に気づいていないか、気づいていたとしてもそれを無視しており、誰かに強制されて治療を受けさせられているという考えを持っていることが多いとの指摘もある。一方的に改善指導をされるより、能動的な学習を盛り込むことで、自分の過去や今後の生活のあり方を模索する時間となるであろう。
入所中を第二段階と定め、A個人の改善指導に合った動画教材の閲覧と進捗管理を行う。普段の作業での成長・懲罰の履歴なども、更生マイアカウントへ随時登録し、ポートフォリオを書き進めていく。出所直前期を第三段階と定め、求職活動や住居確保など、社会生活に向けて実社会の人とかかわる機会を作り、生活の基盤を整えることを目指す。B支援機関や就職先とのオンライン面談・職場見学とその記録管理を通して、刑務官や官民の支援者の力を借りながら、自立への助走期間とする。
出所後の一定期間を最終段階と定め、C保護司や関係各所とのチャット機能を用いる。チャットで社会生活や就労における不安や疑問を、気軽に相談できる体制を築く。なお、人権保障の観点から、刑期終了後まで国が関与することへの批判が強く、管理されるのが嫌で支援の手を拒む出所者もいるため、刑期終了後の使用は努力義務にとどめることも検討する必要がある。ただし、少なくとも、更生マイアカウントへ社会生活に関するQ&A や相談機関一覧を掲載し、社会生活上の疑問・不安を解消する仕組みを整える。
(2) 基本的な運用方針
制度の導入にあたっては、更生マイアカウントへの登録を、刑務所内の全ての受刑者に義務付けることとする。各施設から配布されるメールアドレスとパスワードを用いて運用する。個人情報の漏洩を防ぐため、メールアドレスを活用した二段階認証機能を用いるようにする。刑務所内では、刑務官等の管理下でのみ本アカウントを使用し、出所時にメールアドレスやパスワード・アクセス方法等を出所者に渡す。出所後は、自分自身のスマートフォンや保護観察所等に設置されているパソコンで本アカウントを作動することができるようにする。

4.更生マイアカウントの対象者と使用方法
 ポートフォリオ機能の運用は全ての受刑者を対象に実施するが、それ以外の機能は受刑者の特性に応じて、(1)〜(4)のように用途を定めたい。
(1) 特別改善指導が必要な受刑者
クレプトマニア、薬物依存症、性犯罪者など、依存性や思考の歪みがあり、一般的な刑事手続だけでは十分な更生が期待されない人に対しては、以前から特別改善指導が実施されてきた。上記改善指導においては、これまでも、ビデオや録音の形式による指導が一部導入されているが、地域差があり、人手や技術の不足が問題となることも多かった。そのため、本取り組みにおいて、法務省矯正局が主導して作成したオンデマンド動画教材を、更生マイアカウントを通して全国一律に配信する。これにより、高度な矯正教育を提供し、処遇の地域差をなくす狙いがある。また、講義を動画配信すれば、対面で行うグループワークや面接に時間を割くことができ、より効果的に改善指導を行える。
(2) 教育の機会がなかった若手受刑者
近隣の中学校・高等学校や通信制の高等学校等の協力を得て、オンデマンド動画教材を活用しながら、各々のペースで中等教育レベルの学習ができる環境を整える。オンライン上で進捗管理を実施するなど、刑務官と受刑者双方が進捗状況を確認できるようにする。この取り組みにあたっては、少年院での先駆的な取り組みを継承し、最低限義務教育レベルの知識の習得を目指すとともに、特に更生の見込みがあり、学習態度が勤勉な人には、高卒認定の取得ができるよう、各々のニーズに合ったサポートの実施を目指す。
(3) 出所後に介護が必要な高齢受刑者
法務省は、厚生労働省と連携して、高齢又は障害を有し、かつ、適当な帰住先がない受刑者及び少年院在院者について、釈放後速やかに、適切な介護、医療、年金等の福祉サービスを受けることができるようにするための取り組みとして、矯正施設と保護観察所における特別調整を実施している。しかし、矯正施設と保護観察所等で一元化したサポートができていないのが問題だ。更生マイアカウントを活用した取り組みでは、刑務所にいるうちから、社会の中の支援者とつながりを持ち、オンライン面談などを通して、信頼関係を築き上げていくことを目的とする。受け入れ先を探すためのメンター的役割として、社会福祉法人などの職員を配置する。高齢者であるがゆえ、更生マイアカウント等のデジタル操作に苦労することもあると考えられるため、オンラインと対面を組み合わせて、継続的な支援を目指す。
(4) 就職活動
矯正施設では、受刑者に職業に関する免許や資格を取得させ、又は職業上有用な知識や技能を習得させるために、職業訓練を実施している。しかし、矯正施設出所時に職が決まっている人の割合は、依然としてわずかだ。2021年2月時点において、全国35の刑務所にハローワーク職員が在籍し、受刑者の職探しの支援にあたる取り組みが展開されている10。これに加えて、更生マイアカウントを活用し、拠点庁以外の施設へもオンライン会議システムをつないで、求職面談を行うことを提案したい。また、更生マイアカウントで受刑者自身が受刑者専用求人票を検索できれば、自分に合った仕事を見つけられる仕組みの創設につながる。適職の検討にあたっては、オンライン覆面座談会を通して、出所後就労して安定した生活を得た人の体験談を聞けるようにすることで、自身のロールモデルの開拓にも役立つであろう。
受刑者が社会とかかわる機会は乏しく、令和2年度の実績は、外出20件、外泊0件11である。つまり、受刑者が外界の情報を得、主体的に行動する機会もほとんどないと言わざるを得ない。また、刑務所にいながら職業体験を実施できる制度もあるが、令和2年度の実績は全国で2人12にとどまり、出所後の職のマッチングに課題がある。そこで、ハローワーク職員との対話を通して求人へ応募をした後は、オンラインを用いた職場見学や採用担当との面談を実施し、職のミスマッチを防ぐことを目指す。

5.更生マイアカウントの懸念点と解決策
(1) 矯正施設での使用における課題
現在、受刑者は刑務所内でインターネットを用いることができないため、更生マイアカウントを使用するにあたっては、様々な問題が生じる恐れがある。以下で、懸念点と解決策についてまとめる。
a.通信環境の未整備
現在、刑務所内では刑務官業務を除いて、インターネットが使用されていないはずであり、全ての刑務所への通信環境の整備と、万全なセキュリティ対策には多額のコストがかかる。法務省矯正局の主導で、パソコンやポケットWi-Fi の提供を進め、段階的に通信環境を整備していくことが望ましい。
b.受刑者のインターネット依存症
受刑者が用いるインターネットは、更生マイアカウント以外のサイトに接続できないようにする、1日90分以内などの制限を設け、刑務官監督下以外での使用をさせない等の規則を設ければ、インターネット依存が発生する可能性は低いと思われる。
c.受刑者の刑務作業への悪影響
当面は刑務作業のない休日や、自由時間の一部を使って実施し、作業への支障を最小限に抑える。拘禁刑導入後は個々の処遇計画に基づき、更生マイアカウントの使用時間・頻度を決定する。
d.刑務官の負担増
導入初期はオンライン化への対応や、受刑者個人にかける時間がかなり増大することが懸念される。刑務官への研修や長時間労働への対策が欠かせない。一方、この施策がうまく機能し、受刑者の内的成長がみられるようになれば、刑務官の士気も向上することが期待される。
e.受刑者に手厚い支援をすることへの批判
被害者側からすると、受刑者への手厚い支援を疑問に思うこともあろう。しかし、日本の受刑者一人当たりの収容コストは、年間約300万円13であり、これをすべて税金で賄っている点からも、一刻も早く再犯者の数を減らして、刑事司法のコストを下げていく必要がある。受刑者への支援は、長期的に見て犯罪の少ない社会を作り出し、治安の維持にもつながるだろう。
(2) 出所後の使用における課題
a.保護観察所のITC 化への遅れ
現在、保護観察所では、保護司専用ホームページH @(はあと)の導入が進められており、H @は保護司による報告書送信の電子化や、保護司同士のメッセージのやり取りに使用されている。しかし、H @導入にあたり、保護観察所を調査したところ、Wi-Fi 環境はもとより、インターネットに接続するパソコンが設置されていない例もあった14。更生マイアカウントを出所後も活用していくにあたっては、刑務所と同様の通信環境の整備を進めるとともに、保護観察官・保護司へのITC 教育を強化する必要がある。もっとも、高齢者が多い保護司に向けて、若い世代の出所者が使い方を教える場を設けることで、互いの交流が促進されることも期待できる。
b.出所直後における携帯電話の入手困難
生活のため、出所後すぐに携帯電話を手に入れようとする人は多い。しかし、出所者の中には携帯料金が未納状態のために携帯電話会社の「ブラックリスト」に掲載され、新たに契約できなくなっている人が少なくない。そのような人に向けて携帯電話を安価で貸し出すサービスもある15。出所者へ情報提供を進めることが肝心だ。

6.おわりに
 更生マイアカウントの運用方針について検討してきた。刑務所は国家によって一律に管理されており、情報通信技術の活用における包括的な対策を講じやすいと思われる。そのため、当面の間は、刑務所内の受刑者にのみ更生マイアカウントを付与することとした。しかし、今後の情報通信技術の進化により、個人情報に配慮しつつも、より簡便な認証・利用が促進できる可能性が高い。保護司等のオンライン環境への柔軟性も増すだろう。ゆくゆくは初犯の時点での早期介入を通して、再犯の防止ができるよう、保護観察の対象者や執行猶予判決を受けた人にも提供範囲を拡大することが有効であろう。

(慶應義塾大学法学部法律学科2年)

1 法務省法務総合研究所編『令和3年版犯罪白書』(2021年)p.234
2 法務省法務総合研究所編『令和3年版犯罪白書』(2021年)p.241
3 法務省法務総合研究所編『令和3年版犯罪白書』(2021年)p.243
4 読売新聞2022年6月13日夕刊1面「懲役・禁錮「拘禁刑」に改正刑法成立更生指導重視」
5 中島隆信『障害者の経済学』(PHP 研究所、2011年)p.120
6 里見聡ほか「受刑者の変化への動機づけに関する研究」(『日本犯罪心理学研究』51巻2号 p.12、2014年)
7 法務省法務総合研究所編『令和3年版犯罪白書』(2021年)p.59
8 法務省法務総合研究所編『令和3年版犯罪白書』(2021年)p.61
9 法務省法務総合研究所編『令和3年版犯罪白書』(2021年)p.58
10 読売新聞2021年2月12日夕刊3面「[取材帳]女性刑務所 (3)出所後採用してもらえたら ハローワークが駐在」
11 法務省法務総合研究所編『令和3年版犯罪白書』(2021年)p.57
12 法務省法務総合研究所編『令和3年版犯罪白書』(2021年)p.58
13 中島隆信『刑務所の経済学』(PHP 研究所、2011年)p.1
14 猪木奏実「保護司専用ホームページ「H@」について:保護観察所の視点から」(『更生保護』73巻5号 p.42-45、2022年)
15 読売新聞2020年2月17日朝刊15面「困窮した人の生活再建 携帯契約できず就職苦戦 レンタルでサポート」

佳作
受刑者に対するオンライン教科指導の提言
松葉 篤俊
 
 再犯者率(刑法犯検挙人員に占める再犯者の人員の比率)は、平成9年以降、令和元年を除いて増加の一途をたどっており、令和2年は49.1%と高い数字になった。政府は、平成29年12月にまとめた「再犯防止推進計画」において、教科指導による再犯防止の重要性を確認し、令和4年6月に創設された拘禁刑の内容としても、若年受刑者には教科指導の時間を増やすことを可能とし、再犯防止教育の拡充を狙っている。このように、再犯防止策として矯正施設での教科指導の充実が重要視されているが、課題として、地域差があることや指導のための人員を確保できないことが挙げられるほか、近年では、新型コロナウイルスの感染拡大の影響から、教科指導の実施そのものに支障が出ている。
 そこで、情報通信技術を活用し、教科指導をオンライン授業で実施することを提言する。一度授業の内容を収録すれば、対象となるすべての受刑者が場所や時間を問わず受講することが可能になるので、全国のあらゆる矯正施設で平等に教科指導を受けられるほか、指導者不在の問題や新型コロナのようなパンデミックにも対応できる。教科指導においては、対面授業とオンライン授業を組み合わせたブレンド型授業を行うことが適切と考えられるところ、大学生を対象とした調査結果によれば、いくつか種類があるオンライン授業の中では、講師が授業をしている姿を録画しておき、その授業を何度でも見ることができるオンデマンド授業の学習効率が高い。そこで、対面授業とオンデマンド授業を混合したブレンド型授業を導入すべきと考える。

(三重大学人文学部法律経済学科3年)

佳作
「オンライン相談」を活かした地域非行防止の支援の構想
菊池 壮太
 
 少年矯正は、これまで地域から閉ざされた一部の専門家による取組みとして捉えられてきた。しかし、平成27年に少年鑑別所法で「地域援助」が定められて以降、少年鑑別所では、「法務少年支援センター」という名称のもとで、地域と連携した社会活動が盛んに行われている。地域の人々に対して電話・メール相談で支援を行ったり、矯正現場で蓄積された専門的な知識やメゾットを対面の支援で活かしたりすることによって、遠隔と対面の双方で地域を支え、非行に対する専門的な理解の幅を広げる試みがなされている。さらに、全国の「法務少年支援センター」の多くがオンライン相談を始めており、今後、その取組みが拡充されていくことが予想される。
 オンライン相談は、アクセスの利便性や経済的・時間的な効率化などのメリットがある一方で、こまやかな心理支援の難しさや情報通信技術に関する環境を整備する必要などのデメリットが指摘されている。
 情報通信技術を活用した地域援助を構想するならば、オンライン相談を活かして地域非行防止を支援することが考えられる。オンライン相談は、対面支援が困難な場合の消極的な支援ではなく、むしろ、これまで連携が乏しかった支援者同士をつなげ、他職種と協働的に地域を活性化させるための新しい支援形態になる。最新の情報通信技術を活用し、相談者・支援者がともに地域と親密につながり、明るい支援を行っていくことが、今後の少年矯正に期待される。新型コロナウイルスの感染が蔓延し続けている今日、非対面性を強みとするオンライン相談の普及は、地域援助という少年矯正の新しい取組みについて、これまでの最良の部分を損なわずに積極的に展開していくための一助になることが期待される。

(京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程1年)

佳作
犯罪予測AIの普及に向けた社会的受容性に関する一考察
―海外におけるAI規制を中心に―
栗原 佑介
 
 わが国でも、犯罪予防や要人警護のために人工知能(AI)を積極的に活用することが提言されている。しかし、民間の鉄道事業者が防犯カメラを用いて不審者を検知する対策を公表した際には、社会的合意形成ができていないことを理由に短期間で中止となるなど、必要性が認められる一方で社会的受容性とのバランスをとる仕組みが重要となることから、今後わが国で犯罪予測AIが社会的受容性をもって普及することの要件を検討する。
 本稿で想定する犯罪予測AIはディープラーニングを用いるものとするところ、米国では、受刑者の仮釈放の適否に用いられている再犯予測プログラムが、刑事裁判の量刑判断に転用されたため、被告人がそのプログラムの公正性を争ったState v. Loomis 事件において、公的に入手可能なデータを基にして、正確性の検証試験を行っており、情報の正確性が担保されているなどとして、適正手続に反しないと判断された。欧州AI規制法案では、容認できないリスクに該当する場合にはAIシステムの使用が禁止され、カナダの公的部門では、自動意思決定システムを作成する前のアルゴリズムの影響評価や最終結果を公表することが義務付けられている。
 わが国では、政府がAI原則を公表し、具体的にそれを実装するためのAIガバナンスが民間企業に推奨されているところ、特に内部のガバナンスだけでなく、アドバイザリーボードといった第三者機関によるガバナンスの重要性が指摘されている。
 以上の検討からすると、犯罪予測AIが国際的レベルで社会的受容性を持つためには、@アルゴリズムの透明性につき、営業秘密の開示又はインプットとアウトプットの品質保証によって確保すること、A第三者機関の関与があることの2つが必要となると考える。

(筑波大学大学院人文社会ビジネス科学学術院法曹専攻2年)