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少年院在院者の概況と
保護者に対する働き掛け
小澤 政治


 平成17年版犯罪白書は、「少年非行」を特集テーマに取り上げ、最近の少年非行の動向、非行少年の資質、その処遇の実情等について多角的に分析・検討を加えている。本稿では、特集の中から、少年院における処遇を中心に、関連部分の一端を紹介する。なお、本稿の記述のうち白書の内容の紹介を超える部分については、私見であることをあらかじめお断りしておく。

1 収容動向
 少年院の新入院者は、昭和20年代後半及び30年代前半は、戦後の社会・経済の混乱等を背景に激増し、おおむね8,000〜1万1,000人台の間で推移したが、近年は、おおむね4,000〜5,000人台で推移している。
 平成16年の新入院者は、5,300人(前年比9.0%減) であり、一日平均在院者は、4,585人(同3.0%減) であった。
 少年院の実務では、法定の収容期間(少年院法第11条) の枠内において、行政運営上の収容期間を定めた処遇の類型として、処遇区分が設けられている。処遇区分には、一般短期処遇、特修短期処遇及び長期処遇の3種類があり、その対象者は、次のとおりである。

@  一般短期処遇少年の持つ問題性が単純又は比較的軽く、早期改善の可能性が大きいため、短期間の継続的・集中的な指導と訓練により、その矯正と社会復帰を期待できる者(収容期間は原則として6か月以内)
A  特修短期処遇一般短期処遇の対象者より非行の傾向が進んでおらず、開放処遇に適する者(収容期間は4か月以内)
B  長期処遇短期処遇になじまない者(収容期間は原則として2年以内)処遇区分の別に新入院者の人員の推移(昭和53年以降) を見ると、図1のとおりである。
 長期処遇の人員は、平成7年以降おおむね増加傾向にあり、16年は3,519人(66.4%) であった。特修短期処遇(開放処遇) の人員は、8年(350人)をピークとして、近年減少傾向にあり、16年は84人(1.6%) であった。
 平成16年の新入院者を、その送致された少年院の種類(少年院法第2条)の別に見ると、中等少年院が83.9% (4,446人) と最も多く、次いで、初等少年院が11.6% (616人)、医療少年院が2.6% (138人)、特別少年院が1.9%(100人) となっている。



2 新入院者の特徴
 平成16年の新入院者5,300人(男子4,772人、女子528人) について、その年齢層、非行名、保護処分歴、不良集団との関係を見ると、次のとおりである。
 年齢層は、年長少年が44.6% (2,366人)、中間少年が40.8% (2,163人)、年少少年が14.5% (711人) となっている。
 非行名は、男子では、@窃盗40.9% (1,950人)、A傷害・暴行12.5% (596人)、B強盗10.8% (515人)、C道路交通法違反10.8% (514人)、D恐喝7.8% (371人) であり、女子では、@覚せい剤取締法違反20.5% (108人)、A窃盗19.3% (102人)、B傷害・暴行15.9% (84人)、C虞犯14.8% (78人)、D毒劇法違反5.3% (28人) である。
 保護処分歴は、男子では、少年院再入院者が18.9% (902人)、保護処分歴(保護観察又は児童自立支援施設・児童養護施設送致処分を受けたことがあること) のある初入者が50.2% (2,397人) であり、女子では、少年院再入院者が9.5% (50人)、保護処分歴のある初入者が36.0% (190人) である。
 不良集団に関係のある者は、男子の約53%、女子の約42%を占めており、その種類別に見ると、男子では、@地域不良集団27.0% (1,277人)、A暴走族19.6% (925人)、B不良生徒・学生集団4.3% (202人)、C暴力団2.6%(121人) であり、女子では、@地域不良集団26.1% (136人)、A不良生徒・学生集団5.6% (29人)、B暴走族5.2% (27人)、C暴力団5.0% (26人) である。

3 出院者の状況
 平成16年の出院者の出院事由別人員は、表2のとおりである。 出院後に保護観察を伴う「仮退院」が約97%、これを伴わない「退院」が約3%であり、出院者の大半については、施設内処遇から社会内処遇への円滑な移行が図られている。
 平成16年の仮退院者の平均在院期間は、一般短期処遇(1,842人) では149日、特修短期処遇(83人) では83日、長期処遇(3,511人) では384日となっている。
 また、平成16年の出院(退院及び仮退院) 者5,626人について、その引受人の状況を見ると、表3のとおりである。大半の者は、親族が引受人となっているが、「更生保護施設・保護司」を引受人とする者が、男子では2.6%、女子では5.9%見られる。
 少年院出院者の中には、その後、新たな犯罪・非行を犯して、再び少年院送致処分を受け、又は受刑者として刑務所に入所するに至る者がいる。平成8年から16年までの少年院出院者の再入院等の状況を見ると、表4のとおりである。出院から5年内に再入院した者の比率は、約16%であり、出院(複数回入院した者の場合にはその最終の出院) から5年内に刑務所に入所(初入受刑者としての入所の場合に限る。) した者の比率は、約9〜12%であった。



4 保護者に対する働き掛け
 平成17年版犯罪白書では、少年院における処遇の課題として、@被害者の視点を取り入れた教育の充実・強化、A保護者への働き掛けの強化、B外国人在院者の処遇の充実の3点を取り上げて、それぞれについて、その取組の現状を説明している。このうち、@及びBは、他で紹介される機会も多いように思われるので、以下では、Aの保護者への働き掛けについて述べる。
 在院者の改善更生及び円滑な社会復帰のためには、在院中における本人自身に対する矯正教育の充実を図っていく必要があることはもとより、出院後の生活を視野に置いて、少年院が直接に在院者の保護者に対して働きかけることもまた重要である。少年院での矯正教育の効果の維持・定着を図り、出院後の再非行の防止を図る上で、保護者が果たすべき役割は非常に大きいと考えられるからである。
 平成16年の新入院者の保護者の状況を、処遇区分の別に見ると、表5のとおりである。「実父母」の比率は、長期処遇では42.3%であり、一般短期処遇(49.6%) 及び特修短期処遇(66.7%) と比べてやや低い。
 少年院では、従来から、在院者の保護者が面会のために来所した際や、保護者会などの場面を利用して、保護者に対し、在院者の矯正教育及び円滑な社会復帰に向けた協力を要請するなどの働き掛けを行ってきたところであるが、改正少年法(平成13年4月施行) において家庭裁判所による「保護者に対する措置」(第25条の2) が規定されたことを受け、少年院処遇規則に新たに「院長は、効果的な矯正教育を実施するために、矯正教育に関する保護者の理解を深めるとともに、その実施に関する保護者の協力を得るように努めなければならない。」(第4条の2) との規定を設け、その充実強化に取り組んでいる。
 保護者に対する働き掛けの端緒の一つである面会に関し、平成16年の出院者がその在院中に行った親族との面会の回数を見ると、表6のとおりである。面会の回数は、在院者の在院期間の長短によっても左右されるので、単純に処遇区分別に比較することは困難であるが、長期処遇の場合には、他の処遇区分と比べて、「なし」の比率(7.3%) が高くなっている。
 面会には、面会室で一定の時間実施される通常の面会のほかに、少年院の敷地内にある家庭寮(宿泊設備を備えた独立した建物) に在院者と保護者を宿泊させて行う宿泊面会がある。宿泊面会は、一般的には、出院を間近に控えた時期に行われることが多いが、それ以外にも、例えば、通常の面会の中での指導や働き掛けだけでは十分に効果が上がらないような、家族内のコミュニケーションの障害が認められる場合に、教官を交えた面談等を実施するなどして、その障害の克服を援助するファミリーカウンセリングの場としても利用されている。
 保護者会では、保護者に少年院に出向いてもらい、在院者に対して実施されている矯正教育の内容や施設内での生活の概況を説明するとともに、在院者、保護者及び教官の三者面談により、在院者の家族関係等の調整や出院後の進路等が話し合われる。在院者の入院直後の時期又は出院を間近に控えた時期に行われることが多いが、必要に応じて、意見発表会、運動会その他の院内での行事に際して開催し、親子による共通体験の場を設けるなどの工夫もなされている。保護者会に出席した家族は、「実際に少年院を見て、職員の説明を聞いて、これまで少年院に抱いていた暗いイメージがなくなった」という感想を抱くことが多い。
 平成16年において、全国の少年院が入院時保護者会の開催通知を送付した家族の数及び同通知に応じてこれに出席した家族の数は、表7のとおりである。
 少年院に対する安心感と信頼感を保護者に持ってもらうことにより、少年院では、保護者を矯正教育のパートナーとして位置付けて、より強力に矯正教育を推進していくことが可能となる。今後も、面会の機会や保護者会などを通じて、例えば、交友関係の整理、就労先の確保等について、少年院の側から保護者に問題提起したり、あるいは、我が子との接し方に悩む保護者の相談に応じて適宜助言をするなど、在院者の矯正教育及び出院後の更生に積極的に保護者をかかわらせ、かつ、その監護能力の向上を図らせるための方法になお一層の工夫を重ねていく必要があると思われる。



(法務総合研究所室長研究官)

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