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犯歴等から見た日本における再犯者の実態とその対策の在り方
染田  惠

はじめに

 犯罪者には,生涯に1回だけ犯罪をする者と犯罪を繰り返す者(再犯者)がいる。再犯者対策が重要なのは,再犯者は1人で複数回の犯罪を犯すため,犯罪被害の累積量という観点からみると,生涯に1回だけ犯罪をする者に比べて,社会に与える影響が大きいからである。
 再犯現象を分析する場合,@量的な資料を対象にマクロな分析をする方式と,A個々の犯罪者の特性や個別の犯行状況などの資料をもとに,ミクロな分析をする方式が考えられる。平成19年版犯罪白書では,@として電算犯歴,矯正・保護統計を対象とし,Aとして殺人再犯者128人について,それぞれ分析を行った。本稿では,@の電算犯歴につき,(ア)縦軸(時系列)として,犯歴の件数・回数と再犯期間を,(イ)横軸(犯罪の主体,犯罪の方向・広がり)として,年齢層,同種・異種再犯の有無・頻度を主たる分析の視点とし,マクロな観点から検討する。
 日本の犯罪情勢に目を転ずると,一般刑法犯の認知件数は,平成14年に戦後最多を記録した後,4年連続で減少したが,平成元年ころと比べて依然として相当高い水準にある。本稿では,このような犯罪情勢に再犯者が与える影響(再犯の実態),その効果的な対策,今後検討を要する課題等について,白書での分析を踏まえ,私見も交えながら述べることにしたい。

1 用語の定義と分析の対象

 まず,ここでの分析は犯歴を基準としているので,「再犯者」とは,有罪の確定裁判を2回以上受けた者,「初犯者」は,それが1回だけの者のことをいう。「再犯期間」とは,犯罪者が身柄を釈放されるなどして再犯を行う可能性が生じた時点から,次の犯罪(再犯)に対する裁判が言い渡された日までの期間をいう。
 次に,分析対象である「犯歴」とは,前科,すなわち有罪の確定裁判の記録であり,「犯歴総数」とは,一人の者が犯した犯歴の件数の合計をいう。電算犯歴(検察庁における電子計算機により把握している裁判)には,我が国に本籍を有する自然人(明治以前の出生者を除く。)に対し,昭和23年(1948年)以降現在までの間に,我が国の裁判所が有罪の言渡しをして確定した裁判が登録されている。今回分析の対象とした犯歴は,昭和23年(1948年)から平成18年(2006年)9月30日(基準日)までの約60年間に確定した犯歴から,刑法上の過失犯及び危険運転致死傷罪並びに特別法上の道路交通に係る犯罪の犯歴を除いた上,次のようなサンプルを無作為に抽出したものである。それらは,まず,@「100万人初犯者・再犯者混合犯歴」(初犯者・再犯者の区別をしない犯歴100万人。犯歴の件数は168万495件),A「50万人再犯者犯歴」
(再犯者に限定した犯歴50万人。犯歴の件数は167万8,238件)である。さらに,@及びAのうち,(ア)生年月日が昭和5年(1930年)1月1日以降であること,(イ)裁判時に20歳以上であること,(ウ)基準日において死亡が確認された者でないこと,という条件をすべて満たす者の犯歴として,B「70万人初犯者・再犯者混合犯歴」(71万2,898人。犯歴の件数は121万8,843件),C「35万人再犯者犯歴」(35万6,539人。犯歴の件数は123万799件)を抽出した。BとCを加えたのは,電算犯歴には明治生まれの者が含まれていないため一定の時期までは年齢構成に偏りがあるので,それが分析に影響することを避け,かつ,死亡が確認された者は,死亡時以降再犯の可能性がないのでこれを除外して,再犯率の算出等をより厳密に行うためである。

2 再犯者対策が必要な実証的根拠

 個別の分析に入る前に,再犯者対策が必要とされる実証的根拠について,100万人初犯者・再犯者混合犯歴の分析結果をもとに述べる。図1を見ると,総犯歴数別の人員構成比では,初犯者の71.1%に対し,再犯者は28.9%である。しかし,総犯歴数別の犯歴の件数構成比を見ると,この関係は逆転し,初犯者による犯歴の件数は42.3%であるのに,再犯者による犯歴の件数は57.7%を占めている。つまり人員では約30%にとどまる再犯者が,過半数である約60%という大きな犯罪被害をもたらしている。この関係は,多数回の犯歴を持つ者に関してより一層明確となり,特に,10犯以上の犯歴を持つ者(多数回再犯者)は,この100万人のうちわずか8,398人(0.8%)であるのに対し,彼らの犯歴の件数は実に10万8,201件(6.4%)に達しているのである。ここに,再犯者対策が必要不可欠であることの実証的根拠があると言える。

図1 総犯歴数別人員・犯歴の件数構成比


3 量的観点から重点的な再犯対策が必要な犯罪−数の多い犯罪

 再犯対策を考えるまず第1歩は,どのような犯罪が多く犯されているかという実態を把握することであろう。この観点から100万人初犯者・再犯者混合犯歴の罪名別件数の構成比を見ると,多い順に,傷害(18.0%)及び暴行(5.7%)の粗暴犯(合計で23.7%),窃盗(15.8%)並びに覚せい剤取締法違反(5.1%)となっている。これだけでは,これらの犯罪が繰り返されているかは不明なので,同じ犯歴を対象として,さらに,犯歴回数別(それぞれ1犯目から9犯目まで,及び10犯目以上)に,罪名別・犯歴の件数構成比を見ると,何犯目であっても,高い比率を占める罪名は,傷害,窃盗,暴行及び覚せい剤取締法違反であり,特に,3犯目以降は,すべて,多い順に窃盗(おおむね20%前後),傷害(12%〜19%),覚せい剤取締法違反(おおむね10%前後)の順となっている。量的に多く,かつ,反復して現れるこれらの罪種に対しては,量的観点から見た罪種別の重点的再犯対策の対象として,今後,効果的な対策を考える上で必要な,罪種ごとの特徴等について一層の研究・分析を進めることが必要と考えられる。

4 質的観点から重点的な再犯対策が必要な犯罪−同種再犯の多い犯罪

 罪種別の再犯予防対策としては,@同種再犯とA異種再犯の予防がある。Aにおいて多方向の犯罪を反復する可能性の高い者は,犯罪性向の全般的な高さを示す者として,重点的なリスク・コントロール対策の対象とする必要がある。他方@のように,同種犯罪の反復可能性のある者は,一定の犯罪傾向を有する者として,その問題性に特化した予防策(特別の量刑制度や特別の処遇プログラムなど)の対象とするのが効果的である。特に,重大な犯罪を犯した者が,同種重大再犯をする傾向を有するか否かの見極めは,社会の安全を確保する上で重要である。今回の研究では,これら双方について分析したが,紙幅の関係で,ここでは社会的関心も高い同種再犯に絞って,70万人初犯者・再犯者混合犯歴を分析した結果を述べる。1犯目の罪名を基準に,その後の再犯の有無及び罪名を見ると(図2),同種再犯率は,1犯目の罪名が覚せい剤取締法違反の者が29.1%と最も高く,窃盗の28.9%,傷害・暴行の21.1%が続いている。これに対し,重大犯罪に分類される強盗が1犯目の罪名である者(事後強盗,強盗致死傷及び強盗強姦・同致死を含まない。) 及び強姦の者の同種再犯率は,それぞれ2.0%,3.0%にとどまっている。後者について更に1犯目が性犯罪(強姦,強制わいせつ及び強盗強姦)であった者(1万898人)まで対象を拡大して同種再犯の状況を見ても,その比率は5.1%にとどまっており,他の犯罪に比べて相当低い。ちなみに,1犯目が性犯罪であり,その後性犯罪を更に2回以上反復した者は107人である (1犯目が性犯罪であった者の0.98%)。これらの性犯罪を反復した者の犯歴を見ると,性犯罪のみを反復する者も相当数いるが,性犯罪の間に性犯罪以外の犯罪を犯している者も多い。

図2 1犯目の罪名別・再犯の有無別構成比


5 再犯期間から見て重点的な対策が必要な犯罪−再犯期間の短い犯罪

 再犯期間の長短は,どの時期に,どのような犯罪者群に再犯防止策を採るのが適切かを決する重要な要素である。1犯目から2犯目に至るのを防止するとの観点から,1犯目の罪名を基準に,2犯目(罪名は問わない)までの再犯期間を比較すると,短い順に,第1位は風営適正化法違反を1犯目の罪名とする者で,その1年以内の再犯率は35.6%であり,これに窃盗,覚せい剤取締法違反を1犯目の罪名とする者が, 31.4%,27.3%で続いている(図3@)。これら三つの罪名を1犯目の罪名とする者は,他の罪名と比べて,同種再犯期間が短い者も多く,2犯目までの同種再犯期間が1年以内の者は,多い順に,風営適正化法違反,窃盗,覚せい剤取締法違反が,それぞれ41.5%,36.0%,28.1%となっている(図3A)。

図3 1犯目から2犯目までの再犯期間別構成比


6 再犯対策が重要な年齢層−若年者と高齢者

 ここまでは罪名を基準に検討を進めたが,次に,犯罪主体に着目し,その属性の中でも年齢に焦点を当てる。年齢は,再犯予測に関連する犯罪者の属性の代表的項目の一つであり,諸外国における実証研究に基づいて有効性が確認されているSTATIC-99などの固定的な再犯危険因子評価基準においても重要な要素の一つとされている。
 (1) 若年者(20代)
 まず初めに,犯歴の時系列的分析として,再犯者は,何歳の時に1犯目の犯罪をしたか(犯歴の開始年齢)を50万人再犯者犯歴を対象に検討する。昭和61年(1986年)から平成17年(2005年)までの 20年間(前記の年齢構成の偏りの影響を受けない期間の一部)に1犯目の犯罪を犯した再犯者が,1犯目を犯した当時の裁判時年齢を見ると,20代前半の者(20〜24歳)が42.9%,20代後半の者(25〜29歳)が19.0%と,若年者が約60%を占めている。そこで,1犯目の裁判時年齢層別の再犯傾向について70万人初犯者・再犯者混合犯歴を対象に更に検討すると,1犯目の犯罪を犯した年齢が20代前半の者の41.0%,20代後半の者の28.2%が,その後再犯を犯している。この傾向を再確認するため,100万人初犯者・再犯者混合犯歴を対象に,昭和60年(1985年)から平成12年(2000年)の間,5年ごとに,1犯目の犯罪を犯した後5年以内の再犯率を,1犯目の裁判時年齢層別に経年比較すると,すべての年次において,20代前半の者の5年以内再犯率はおおむね25%前後と他の年齢層に比べてかなり高く,20代後半の者がこれに続いている。
 これらを踏まえると,特に20代前半の者の再犯傾向は,それ以外の年齢層と比べて相当高いことが実証され,前記STATIC-99において25歳未満の者が再犯傾向の高い者として分類されているのと同じ傾向が確認された。
 (2) 高齢者(65歳以上)
 高齢者は,絶対数は少ないが,年齢層と再犯期間のクロス分析を行うと,再犯期間が短いグループの一つとして現れる。70万人初犯者・再犯者混合犯歴を対象に,再犯者について,1犯目を犯した時の年齢層別に,2犯目までの再犯期間が短い年齢層を見ると,20代前半では約47%が,55歳以上では過半数が,高齢者では約4分の3が,2年以内の期間に再犯を犯している。特に高齢者の場合,他の年齢層と比べて,6月を超え1年以内に再犯を犯す者の比率が31.1%と際立って高く,6月以内の者も併せると,約半数の者が1年以内に再犯を犯している(図4)。

図4 1犯目の年齢層別・1犯目から2犯目までの再犯期間別人員構成比


 さらに,多数回高齢再犯者(高齢者で,犯歴の件数が10犯以上の者)が犯す犯罪を,35万人再犯者犯歴を対象に,平成17年について分析すると,窃盗が51.4%と過半数を占め,詐欺と併せて全体の60%以上を占めているほか,覚せい剤取締法違反が10%おり,高齢の薬物乱用者の存在も示唆している。

7 特別の対策が必要な者−多数回再犯者とその高齢化

 多数回再犯者の問題性は既に述べたが,50万人再犯者犯歴を対象に,その動向の経年変化を見ると,高齢化の進行がはっきりと現れている。平成2年当時,多い順に,裁判時年齢40代が41.3%,50代が36.2%,30代が11.1%となっていたが,平成17年には,それが 50代(41.2%),60代(32.8%),40代(15.3%)と逆転し,特に30代は3.1%に低下した。各年の50代以上の者の比率は年々高くなっており,特に高齢者の占める比率が急速に高まって,平成17年においては20.3%と過去最高となり,これに,55歳以上64歳以下の者を併せると,多数回再犯者の64.4%が中・高齢者で占められている。

8 再犯者対策と今後の課題

 現在の体制を前提とする再犯者対策は,平成19年版犯罪白書の第7編第6章で詳述されているのでここでは割愛し,筆者の視点から,今後必要と考えられる施策等について略述して,本稿のまとめとしたい。なお,以下の記述は,同白書の記述から離れ,あくまでも私見である。
 (1) 覚せい剤取締法違反は同種再犯が多く,再犯期間の短い者も多いので,罪種別対策が効果的である。ところで,同法違反で実刑を受けた者に占める使用又は使用目的所持の者の比率は,昭和60年(1985年)から平成15年(2003年)の間,一貫して90%を超えている。そこで,罪種別対策として,覚せい剤取締法違反には,専門的な薬物乱用者処遇の充実及び専門的処遇を刑事施設収容以外の選択肢において実施できる体制の整備が重要と考えられる。
 今回の研究では,複数の犯罪に関して,犯歴の回数と量刑の重さの変化,及び犯歴の回数と再犯期間の変化についても分析を行った。その中で覚せい剤取締法違反のみを繰り返した者の経過を見ると,回数を重ねるにつれて,量刑は重く,再犯期間は短くなることが分かった。これは,当初,自由刑の執行を猶予され更生の機会を与えられても,乱用は止められず,犯歴を重ねることにより,乱用の悪循環が加速されることを示している。この事実は,通常の刑事罰のみでは,乱用者対策として限界があることを示唆している。日本では,平成12年以降,刑事施設における受刑者等の過剰収容状態が続いている。その中で,近年,継続的に,新受刑男子のおおむね20%前後,女子では30〜40数%の者が覚せい剤取締法違反であることを考えると,刑事施設に収容しないで専門的な薬物乱用者処遇を行うプログラムの導入も検討に値しよう。また,施設内と社会内の処遇を行う既存の機関が継続的処遇実現のために協力し,刑事司法,医療・保健・福祉等の多機関連携の下における,より専門的な薬物乱用者処遇体制の充実・強化も同時に図られるべきものと考える。
 (2) 年齢層別では,高い再犯率を示した若年者の再犯者化を今後予防する方策として,実証研究において効果が認められている,刑事司法から教育・福祉・医療等まで多機関が連携して,再犯危険性のある特定の青少年対象者に対して,早期介入を集中的に行う体制の創設も一つの選択肢であろう。今回の分析で,20歳代前半の新受刑者には,保護処分歴のある者が少なくないことが分かっており,少年時代の問題性を早期介入によって解消し,新受刑者となることを防止することが肝要である。多数回高齢再犯者については,過半数の者が犯している窃盗の実態の研究(多数回高齢再犯者特有の窃盗の特徴の把握を含め)とともに,医療・福祉機関との連携による司法福祉的アプローチを強化して,その再犯を防止する必要性が高いと考える。
 (3) 年齢層を問わず件数の多い窃盗については,これまで本格的な実証研究がなされてこなかった。しかし,詳細な手口・年齢層・被害の対象・被害額などを関連させて分析することは,その防止策充実に寄与すると考えられる。例えば,多数回高齢再犯者の犯す窃盗の内容は,実務的には,生活困窮に由来する少額の飲食物を対象とする例が多いように思われるが,これについても,実証的なデータを積み重ねてその実像を明らかにし,効果的な対策を考えるべきであろう。

(法務総合研究所室長研究官)

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