日本刑事政策研究会
トップページ > 刑事政策関係刊行物:犯罪白書 > 平成23年版犯罪白書 ─犯罪動向と犯罪者処遇の現況
犯罪白書
犯罪白書一覧へ戻る
平成23年版犯罪白書
─犯罪動向と犯罪者処遇の現況
清水 淑子

 犯罪白書は,前年までの犯罪動向を分析し,犯罪者処遇の現況を紹介するとともに,時代の要請に応じた犯罪者処遇の方向性を示すことを目指して,毎年刊行されている。
 最近の犯罪白書では,再犯防止のための少年・若年犯罪者に対する処遇の重要性が繰り返し指摘されているが,少年の刑法犯人口比は,昭和33年以降,毎年成人よりも高く,近年,少年の一般刑法犯検挙人員に占める再非行少年(前に道路交通法違反を除く非行により検挙(補導)されたことがあり,再び検挙された少年)の比率(再非行少年率)も上昇傾向にある。そこで,本年版犯罪白書の特集では,少年・若年者の犯罪の実態を明らかにした上,再犯の要因及び改善更生の契機等について分析・検討し,「少年・若年犯罪者の実態と再犯防止」と題して特集を組んだ。
 以下,平成23年版犯罪白書の要点を紹介する。

1  犯罪動向

(1)刑法犯
 平成22年の刑法犯の認知件数は,227万1,309件(前年比12万8,393件(5.4%)減)であり,刑法犯から自動車運転過失致死傷等(道路上の交通事故に係る自動車運転過失致死傷,業務上過失致死傷及び重過失致死傷)を除いた一般刑法犯の認知件数は,158万6,189件(前年比11万7,180件(6.9%)減)であった。22年の刑法犯の認知件数を罪名別に見ると,53.4%は窃盗であり,次いで,自動車運転過失致死傷等(30.2%)の構成比が高い。
刑法犯の認知件数の半数以上,一般刑法犯の8割近くを占める窃盗の減少により,刑法犯でも一般刑法犯でも,認知件数は平成15年から減少しているが,戦後を通して見ると,依然として高水準にある。22年の一般刑法犯及び窃盗の認知件数を,同件数が戦後最多となった14年と比較すると,一般刑法犯全体よりも窃盗の減少率の方が高く,一般刑法犯全体の減少に占める窃盗の割合も,同年以降の一般刑法犯中の窃盗の割合よりも高い。つまり,全ての罪名の認知件数が一般刑法犯に占める比率を保ったまま減少したわけではなく,特に窃盗が多く減少したのであって,その他の罪名は窃盗ほど減少していない。罪名別に見ると,一般刑法犯の認知件数が減少する中,暴行では19年まで,器物損壊では15年まで認知件数が増加し,その後も高水準を維持しており,これらの罪名の認知件数が一般刑法犯認知件数に占める比率を14年と22年とで比較すると,器物損壊では6.9%から9.9%に,暴行では0.7%から1.9%に,いずれも顕著に上昇している。公務執行妨害及び脅迫等でも,同様の傾向が見られる。窃盗は減少しても,増加して高水準を維持している犯罪があり,犯罪情勢が好転したと楽観することはできない。
刑法犯の検挙人員は,平成16年に戦後最多の128万9,416人を記録したが,17年から減少し,22年は102万3,537人(前年比2万8,301人(2.7%)減)であった。罪名別に見ると,自動車運転過失致死傷等が68.4%を占めている。一般刑法犯の検挙人員は,昭和25年に戦後のピークがあり,60万7,769人を記録したが,その後多少の増減はあるものの,31年以降は50万人未満で推移し,平成17年から緩やかに減少しており,22年は32万2,956人(前年比3.1%減)であった。
検挙率は,平成8年から14年にかけての認知件数の急増に検挙が追い付かず,13年には,刑法犯全体で38.8%,一般刑法犯で19.8%と戦後最低を記録した。しかし,殺人では昭和25年以降94%以上の検挙率を維持している上,一般刑法犯全体の検挙率もその後上昇に転じ,22年は,刑法犯全体で52.1%,一般刑法犯で31.4%であった(図1参照)。

図1 刑法犯 認知件数・検挙人員・検挙率の推移
(昭和21年〜平成22年)


(2)特別法犯
 特別法犯の検察庁新規受理人員は,近年,減少傾向にあるが,毎年道交違反(道路交通法違反及び自動車の保管場所の確保等に関する法律違反)がその大部分を占めており,平成22年も特別法犯全体の81.2%は道交違反である。同年における特別法犯の検察庁新規受理人員は,55万8,181人(前年比4万5,917人(7.6%)減)であり,道交違反を除く特別法犯では,前年比で6.2%減少し,10万4,832人であった。罪種別に見ると,薬物関係(24.4%),軽犯罪法違反等を含む保安関係(20.1%)の構成比が高い。

2  犯罪者処遇

(1)検察
 平成22年における検察庁終局処理人員は,157万7,369人(前年比7万1,331人(4.3%)減)であり,その内訳は,公判請求10万9,572人,略式命令請求40万8,681人,起訴猶予83万9,984人,その他の不起訴7万3,372人,家庭裁判所送致14万5,760人であった。いずれも,19年以降,検察庁終局処理人員総数の減少とともに,減少している。
 平成22年における検察庁既済事件(一般刑法犯及び道交違反を除く特別法犯に限る。少年事件を含む。)について,被疑者の逮捕・勾留人員を見ると,全被疑者(法人を除く。)に占める身柄事件(警察等で被疑者が逮捕されて身柄付きで検察官に送致された事件及び検察庁で被疑者が逮捕された事件)の被疑者人員の比率(身柄率)は,30.2%であった。勾留請求率(身柄事件の被疑者人員に占める検察官が勾留請求した人員の比率)は,近年93%前後で推移しているが(22年は92.8%),勾留請求却下率(検察官が勾留請求した被疑者人員に占める裁判官が勾留請求を却下した人員の比率)は15年から上昇しており,22年は1.07%であった。
(2)裁判
 裁判確定人員は,平成12年から毎年減少し,22年は,47万3,226人(前年比6.0%減)と10年間で半減している。その減少は,道交違反の人員の減少によるところが大きい。22年における通常第一審での罪名別の終局処理人員を見ると,地方裁判所では,窃盗が1万2,277人(19.9%)と最も多く,次いで,覚せい剤取締法違反1万846人(17.5%),道交違反7,770人(12.6%),自動車運転過失致死傷・業過5,511人(8.9%)の順であった。簡易裁判所でも,窃盗が7,983人(83.5%)と最も多い。
(3)矯正
 刑事施設の年末収容人員は,平成22年末現在7万2,975人であり,収容率(年末収容人員の収容定員に対する比率)は80.9%(既決90.0%,未決44.8%),収容人員が収容定員を超えている刑事施設(本所に限る。)は,77施設中13施設(16.9%)であった。同年の刑事施設の職員一人当たりの被収容者負担率(刑事施設全体の一日平均収容人員を職員定員で除した数値)は,3.88であった。なお,同年末現在の女子の収容率は97.8%(既決120.3%,未決40.5%),女子施設(美祢社会復帰促進センターを除く。)における職員一人当たりの被収容者負担率は4.86であり,より高水準にある。
(4)更生保護
 保護観察開始人員は,平成15年から減少を続けており,22年は4万7,562人(前年比1.9%減)であった。このうち,保護観察処分少年は2万5,525人(同2.2%減),少年院仮退院者は3,883人(同0.4%増),仮釈放者は1万4,472人(同2.6%減),保護観察付執行猶予者は3,682人(同0.3%増)であった。
 保護観察率は,昭和24年以降では38年(20.6%)に最も高く,平成6年から低下傾向にあるが,22年は9.1%と前年より0.4pt上昇した。仮釈放率は,19年から昭和24年以降の最低を更新しており,平成22年には49.1%であった。

3  各種犯罪者の動向

(1)薬物犯罪
 薬物犯罪の検挙人員を見ると,その大部分を占める覚せい剤取締法違反は,平成13年以降,おおむね減少傾向にあったが,22年は,前年より2.8%増加し,1万2,200人であった。大麻取締法違反の検挙人員は,13年から増加傾向にあり,22年は,2,367人と,前年から23.3%減少したものの,12年と比較すると,依然約1.9倍の高水準にある。
(2)高齢者犯罪
 高齢者(65歳以上の者)の一般刑法犯検挙人員の増加は著しく,平成22年は,3年の約6.8倍となっている。一般刑法犯検挙人員の年齢層別構成比を見ると,昭和56年には3.3%(1万3,710人)であった60歳以上の者の構成比が,平成22年には,21.3%(6万8,754人)まで上昇し,高齢者も14.9%(4万8,162人)を占めている。同年10月1日現在の高齢者の人口は,過去最高の2,958万人となり,総人口に占める比率(高齢化率)は23.1%にまで上昇し,これが高齢犯罪者の増加の一因となっている。しかし,同年の高齢者の一般刑法犯検挙人員の人口比は164.4と,3年の45.7と比較すると,約3.6倍にまで上昇しており,高齢者の検挙人員の増加は高齢者人口の増加をはるかに上回っている。22年の高齢者の検挙人員を罪名別に見ると,窃盗の割合が高く,特に女子では,91.4%が窃盗であり,しかも万引きによる者が81.2%と際立って多い。22年の高齢者の検挙人員を3年と比較すると,殺人は3.0倍,傷害は約9.0倍,強盗は21.4倍にまで顕著に増加している。

4  裁判員裁判の実施状況

 平成22年における裁判員裁判対象事件の通常第一審の新規受理人員は1,797人であり,罪名別では強盗致傷(延べ468人)が最も多く,次いで,殺人(同350人),現住建造物等放火(同179人),覚せい剤取締法違反(同153人)の順であった。終局処理人員は1,530人で,強盗致傷(402人),殺人(359人),現住建造物等放火(133人),傷害致死(115人)の順であった。通常第一審で判決のあった裁判員裁判対象事件の開廷回数は,ほとんどが5回以下であり,3回以下が49.2%を占め,平均は3.8回であった。審理期間を見ると,6月以内のものは34.0%であり,平均では8.3月であった。
 裁判員裁判対象事件について,平成22年に通常第一審で有罪判決を受けた者の科刑状況を見ると,死刑3人,無期懲役35人,有期懲役1,465人であり,そのうち執行猶予付きのものは241人(執行猶予率16.5%),保護観察に付されたものは132人(保護観察率54.8%)であった。

5  再犯者

 一般刑法犯検挙人員に占める再犯者(前に道路交通法違反を除く犯罪により検挙されたことがあり,再び検挙された者)の比率は,平成9年から上昇し続け,22年は42.7%(前年比0.5pt上昇)であった(図2参照)。成人の一般刑法犯検挙人員中の有前科者(道路交通法違反を除く犯罪による前科を有する者)の比率(有前科者率)は,元年以降22〜30%で推移しており,22年は28.2%であった。前科数別では,前科1犯の者の構成比が39.1%と最も高いが,前科5犯以上の者も21.9%を占め,また,有前科者のうち,同一罪種(警察庁の統計の区分による。)の前科を有する者は51.6%であった。これらを罪名別に見ると,一般刑法犯全体の有前科者率(28.2%)と比較して,強盗(46.0%),詐欺(39.8%)の有前科者率は顕著に高い。検挙人員中,同一罪種の前科を有する者の比率は,一般刑法犯全体では14.5%であるが,傷害では19.5%,窃盗では19.3%と高く,同一罪種5犯以上の前科がある者の比率も,一般刑法犯全体では1.6%であるが,窃盗では2.4%,詐欺では2.8%と高い。これらの罪種では同種犯行を繰り返す者が多いことがわかる。また,覚せい剤取締法違反の成人の検挙人員のうち,同一罪名の検挙歴のある者の比率は,同年において60.2%と高く,同法違反者の多くが,同種犯行を繰り返していることがわかる。
 入所受刑者(刑法犯及び特別法犯)に占める再入者(刑事施設への入所度数が2度以上の者)の比率は,平成5年から低下していたが,16年から再び上昇しており,22年は56.2%と入所受刑者全体の半数以上を占めている。また,入所度数が5度以上の者も19.2%と2割近くに達している。

図2 一般刑法犯検挙人員中の再犯者人員・再犯者率の推移
(平成3年〜22年)



6  少年・若年犯罪者の実態と再犯防止

 平成23年版犯罪白書では,再犯防止の鍵となる少年及び若年者の犯罪と再犯について分析し,「少年・若年犯罪者の実態と再犯防止」と題して特集を組み,少年院出院者のその後の再犯の状況を調査するとともに,少年及び若年犯罪者に対する意識調査を実施した。これらの特別調査については,本誌別稿において紹介しているので,本稿では少年非行及び若年者犯罪並びに非行少年及び若年犯罪者の再非行・再犯の動向について紹介する。
(1)少年非行と若年者犯罪の動向
 少年の検挙人員は,平成16年から刑法犯でも一般刑法犯でも減少している。その人口比も同年から低下傾向にあるが(図3参照),一般刑法犯の検挙人員の年齢層別人口比は,高齢者で上昇が著しいとはいえ,年齢層が低いほど高く,少年期を年少少年(14歳又は15歳),中間少年(16歳又は17歳)及び年長少年(18歳又は19歳)に分けて見ると,年少少年で最も高く,成人期に近づくに連れて低下している(図4参照)。
 平成22年の自動車運転過失致死傷,業務上過失致死傷,重過失致死傷,危険運転致死傷及びぐ犯を除く少年保護事件の家庭裁判所終局処理人員を処理区分別の構成比で見ると,審判不開始70.6%,不処分11.4%,保護観察13.5%,少年院送致3.4%,検察官送致0.6%(うち刑事処分相当による検察官送致は0.2%)となっており,検察官送致となって刑事処分を受ける少年の比率は低い。しかし,同年における原則逆送事件の家庭裁判所終局処理人員29人のうち23人(79.3%)は検察官送致決定を受けており,同比率は,原則逆送制度が採用された13年以降最も高い。

図3 少年・若年者による一般刑法犯等 検挙人員・人口比の推移
(1) 刑法犯


(2) 一般刑法犯



図4 少年による一般刑法犯 検挙人員・人口比の推移(年齢層別)


(2)非行少年・若年犯罪者の再非行・再犯の動向
 非行少年の多くは,加齢とともに非行から立ち直りを見せると言えるが,その一方で,犯罪行為を繰り返す者も存在する。以下,少年及び若年者の再犯の動向について述べる。
 第一に,一般刑法犯における再非行少年率を見ると,平成9年には21.2%であったが,10年から上昇し,22年には31.5%となっている。一般刑法犯の大半を占める窃盗でも同様の傾向が見られるものの,その水準は同年において30.8%と一般刑法犯全体と同程度である。これに対し,強盗では,同比率が顕著に高く,元年以降は8年を除いて50%を超える水準が続いており,22年には61.9%であった。また,恐喝では8年の37.9%から22年には60.8%に,詐欺では4年の12.6%から22年には39.1%に,いずれも顕著に上昇している(図5参照)。
 第二に,平成22年における保護観察処分少年,少年院入院者,若年保護観察付執行猶予者及び若年入所受刑者の保護処分歴別構成比を見ると,有保護処分歴者(前に保護処分を受けたことがある者)の割合は,保護観察処分少年で20.0%,少年院入院者で64.0%,若年保護観察付執行猶予者で46.6%,若年入所受刑者で37.8%となっている。若年保護観察付執行猶予者及び若年入所受刑者では,保護観察付執行猶予者全体(25.2%)及び入所受刑者全体(24.6%)と比較して顕著に高い。これらの者では,少年時の非行傾向が十分に改善されず,刑事処分に至ったと考えられる。これを罪名別に見ると,有保護処分歴者の占める比率は,保護観察処分少年では,毒劇法違反(32.3%),道路交通法違反(28.5%),少年院入院者では,道路交通法違反(80.2%),毒劇法違反(79.4%),恐喝(72.5%),暴行(69.2%),窃盗(68.9%),若年保護観察付執行猶予者では,毒劇法違反(77.8%),恐喝(61.8%),道路交通法違反(57.9%),窃盗(50.8%),傷害(50.4%),覚せい剤取締法違反(50.3%),若年受刑者では,暴行(56.3%),恐喝(53.6%),傷害(50.5%)の順で高い。
 第三に,平成8年から18年までの間に少年院を出院した者について,再入院(新たな少年院送致決定による再入院)又は刑事施設への入所(初入者としての入所に限る。)の状況を見ると,出院年を含む5年間に再入院した者の比率は,14.5〜17.4%(男子15.5〜18.1%,女子6.7〜10.5%),出院年(複数回入院した者の場合には最終の出院年)を含む5年間に刑事施設に入所した者の比率は,8.7〜12.0%(男子9.3〜13.5%,女子1.5〜3.3%)である。8年から18年までの間に満期釈放又は仮釈放により刑事施設を出所した若年者について,新たな裁判の確定による再入所(前刑出所後の犯罪により再入所した者に限る。)の状況を見ると,出所年を含む5年間に再入所した者の比率は,34.0〜44.8%(男子34.6〜45.9%,女子21.8〜33.1%)であり,12年以降の出所者については,出所年が遅い者ほど低い。
 第四に,平成13年から22年までの間に保護観察が終了した保護観察処分少年及び少年院仮退院者について,保護観察期間中に再非行・再犯により新たな保護処分又は刑事処分を受けた者が占める比率(再処分率)を保護観察の終了年ごとに見ると,保護観察処分少年では17.1〜19.2%,少年院仮退院者では20.7〜25.3%であった。同期間に保護観察が終了した若年保護観察付執行猶予者及び若年仮釈放者について,同様に再処分率を見ると,若年保護観察付執行猶予者では35.4〜43.5%,若年仮釈放者では0.7〜1.5%であり,若年保護観察付執行猶予者では,各年とも保護観察付執行猶予者全体に比べて高い水準で推移している。
(法務総合研究所室長研究官)


図5 少年の一般刑法犯 検挙人員・再非行少年率の推移(総数・罪名別)
(平成元年〜22年)








犯罪白書一覧へ戻る