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平成25年版犯罪白書特集「女子の犯罪・非行」を読んで
岩井 宜子
1.はじめに

(1)平成4年版犯罪白書で,「女子と犯罪」を取り上げて以来,約20年経過した今年,このテーマを取り上げるのは,平成4年の分析においては, 女子犯罪の増加と女性の社会進出との関連に焦点をあて,結論としてその関連を否定し,「弱い立場から抜け出せない」女性や,「家庭環境に問題をもつ」少女によって引き起こされているとし,「健全な家庭と子弟養育態度の維持向上が図られれば,女子犯罪の防止に寄与するものと期待される」と総括しているのに対し, その後の平成11年男女共同参画社会基本法制定等女性を取り巻く経済情勢や社会環境の変化のもと,女子の犯罪・非行の現状やその特徴的な傾向,刑事処遇の実情と動向を概観し,女子特有の問題に着目した指導・支援の充実及び再犯防止に向けた方策等について検討することを意図しているとされている。
特に,女子入所受刑者が平成22年において平成4年の約2.4倍になっていることが注目され,適切なテーマであったと思われる。


2.女子の犯罪の動向

{1} 戦後の女性犯罪の増加
第2章第1節は,女子の一般刑法犯(交通事犯除く)の検挙人員・人口比・女子比の昭和21年からの推移を分析している。戦後の混乱期に第一のピークがあり,昭和39年に第2のピーク,昭和58年に第3のピークがあるのは,少年非行の動向に類似している。
女子比は,昭和38年に1割を超えた後も増加の傾向を示し,昭和52年に2割を超えて,その後はおおむね2割前後で推移していることが看取され,急激に社会的条件は変化しているのにかかわらず,男女の均衡が保たれているのが興味深い。また,戦後女性犯罪が一方的に増加しているかにみえるが, 人口比のピークは昭和24年ころであったのが注目される。検挙人員・女子比の増加は,女子の平均寿命がどんどん延びることによる人口増を反映しているものといえる。昭和25年以降一般刑法犯の総検挙人員は減少の傾向を示していたのに対し,女子は昭和30年以降増加の傾向を示すという,男子と異なった傾向を示していたが, 平成17年以降,一般刑法犯の総検挙人員が減少に転じるのに伴い,女子の検挙人員も同様に減少している。(6−2−1−1図)

{2} 刑法犯検挙人員の急激な高齢化
女子の一般刑法犯の検挙人員について,過去30年間の年齢層別構成比をみたグラフでは,高年齢化が進んでいることが顕著に見て取れる。65歳以上の高齢者の占める割合は,平成5年は5%台であったが,平成24年は27.3%と約5倍になっている。一般刑法犯総検挙人員に占める65歳以上の割合は平成24年:16.9%であったから(1−1−1−5図),男子に比べても相当の高率といえる。逆に女子の少年比は,平成5年46.7%から半減しており,平成24年は19.3%であった。(6−2−1−2図)

{3} 万引きが主要な犯罪態様
平成24年の一般刑法犯・男女別・罪名別構成比のグラフにおいては,女子は窃盗が8割近くを占め,男子(5割弱)と比較し顕著に多く, 特に万引きが62.6%であり,男子(24.3%)に比べ著しく高く,高齢者では9割強が窃盗だという。(6−2−1−3図)

3.特別法犯

交通法令違反を除く特別法犯について,過去30年間の送致人員の推移をみている。平成になって,減少し,平成15年からはおおむね11,000人台で推移している。女子比は平成5年(19.1%)から低下して平成24年は14.8%である。(6−2−2−1図)
平成24年における女子の特別法犯の送致罪名は,覚せい剤取締法違反が22.1%と最も多く,軽犯罪法違反(12.9%),風営適正化法違反(10.6%),未成年者喫煙禁止法違反(9.2%),入管法違反(8.8%)の順となっているという。女子覚せい剤取締法違反の送致人員は,昭和59年に最多の4,274人を記録した後,一旦減少したが平成7年から3,000人台で増減を繰り返しており,平成15年からは2,000人台,平成24年は2,268人であったという。(183頁)
成人・少年別に女子覚せい剤取締法違反の送致人員の20年間の推移を見ると,平成9年以降成人・少年とも減少傾向にあり,平成24年の成人送致人員は2,169人,少年送致人員は99人であった。女子比は,成人は横ばいで平成24年は19.3%であり,少年は増加傾向にあり,平成24年は68.3%である。覚せい剤取締法違反は,少年犯罪としては女子の比率が高いという特徴は変わらないが,送致人員数は,近年著減の傾向にあることが分かる。(6−2−2−2図)

4.検察・裁判

{1} 起訴・不起訴
過去20年間の女子の一般刑法犯検察官送致人員(起訴・不起訴人員)の推移を見ると,平成5年から11年までは横ばい状態であったが,平成11年から18年にかけて急増し2.5倍を超えている。これは検挙人員の増加に相応するものともいえるが,平成17年以降検挙人員は減少を続けているのに,横ばい状態なのは,犯罪内容の質的変化なのかが,注目される。起訴猶予率は平成11年以降男子は増加傾向にあるのに,女子はむしろ減少傾向にあり,必然的に起訴人員の女子比は増加傾向にある。(6−3−1−1図−@)
平成17年の女子の窃盗の起訴猶予率は74.7%であったのに対し,窃盗に罰金刑が導入された平成18年を境に,平成19年は62.2%と大きく低下した。男子の起訴猶予率は4割弱で変化なしという。(185頁)
過去20年間の特別法犯の送致人員も平成5年からむしろ減少しているのに,起訴・不起訴人員は5年に比し平成24年は18.2%増となっている。(6−3−1−1図−A)

{2} 少年保護事件の処理
平成24年における少年保護事件(ぐ犯,簡易送致事件,交通事犯を含まない)は総数46,242人の内,女子比は15.1%であり, 家庭裁判所終局処理区分を男女別に見ると,検察官送致:男子0.5%,女子0.1%,少年院送致:男子7.3%,女子3.6%, 保護観察:男子26.4%,女子20.1%と総じて,男子より軽い処分を受けていることが分かる。覚せい剤取締法違反は, 女子の方が男子より多いが,男子は15.6%が検察官送致されているのに対し,女子は0%であり,少年院送致は女子57.1%と男子55.6%より多い。 窃盗も検察官送致:男子0.2%,女子0.1%,少年院送致:男子6.1%,女子1.4%, 保護観察:男子25.9%,女子17.8%と総じて,男子より軽い処分を受けていることが分かる。(6−3−2−1図)

5.矯正

{1} 女子の受刑者 女子の刑事施設入所者の年末人員は増加を続け,そのため,札幌刑務支所,栃木刑務所,笠松刑務所,和歌山刑務所,岩国刑務所,麓刑務所の6施設に加え,福島刑務支所が開設し,美祢社会復帰促進センター,加古川刑務所に女子収容棟が増設された。それでも既決の収容率は103.4%で収容定員を上回っている。(6−4−1−1図)
この20年間の著しい変化は,女子の入所受刑者の増加である。平成24年は2,225人(全体の9.0%)で,平成5年の約2.4倍になっている。罪名別にみると,覚せい剤取締法違反が最も多かったが,平成24年に窃盗が上回ったという。(6−4−1−2図)
年齢層別の推移をみても,29歳以下は,平成5年の半分となり,65歳以上が増加を続け12.8%となり,男子の8.5%よりも多い。(6−4−1−3図)
罪名別・年齢層別構成比をみると,平成20年〜24年の累計のグラフでは,40歳未満までは,覚せい剤取締法違反が大半を占めているが,それ以上になると窃盗の割合が上昇し,65歳以上では77.8%を窃盗が占めているのが分かる。(6−4−1−4図)
若年者層・高齢者層別では,29歳以下は平成13年から18年にかけて,入所受刑者が増大し,高止まりしているが平成19年以降減少に転じ,平成5年とほぼ同じ水準に戻っているのに対し,65歳以上は平成5年の26人から平成24年の285人へと増加し続けているのが窺える。(6−4−1−5図)
入所受刑者の教育程度について,平成20年〜24年の累計でみると,女子の不就学等が2.5%と男子の1.2%を上回っているが,それは,女子の場合65歳以上の比率が高く,その年齢層の不就学等が10.5%を占めることを反映したものといえ,高校中退者も男子より少なく,高校卒業以上は男子より高率である。女子受刑者の年齢層別教育程度のグラフでは,29歳以下では高校中退者が36.4%と高率なのに比し,65歳以上の高齢者を除き,年齢層が上がるにつれて高校卒業以上の比率が増すことが指摘されている。年齢層によって,問題性が異なることを示すものと考えられる。(6−4−1−6図)
入所受刑者の婚姻状況別構成比のグラフでは,未婚者の比率は,男子42.3%に比し,女子20.5%と顕著に低い。しかし,年齢層別分析では,29歳代ですでに離別が有配偶を上回り,30歳代,40歳代,50〜64歳では,4割以上を占めていることが問題視される。50歳以上になるとさすがに有配偶の占める比率が最も高い。(6−4−1−7図)
犯行時の就労状況を見ると,男子は,無職が64.3%なのに比し,女子は78.9%と高率である。年齢層別では,さすがに29歳以下が最も無職者の比率が低いが,30歳代,40歳代,50〜64歳と8割弱の一定比率を示している。(6−4−1−8図)
入所度数のグラフでは,初入者が男子は42.4%なのに比し,女子は60.9%と多くを占める。年齢層別では,当然29歳以下では,初入者が85.1%を占めるが,各年齢層,5割を超え,65歳以上でも51.8%が初入者であるのが注目される。(6−4−1−9図)
女子入所受刑者の精神障害を有する者(刑事施設において,知的障害,神経症性障害,人格障害を除く統合失調症,精神作用物質による精神及び行動の障害等を有すると診断された者)の比率は,15.4%で,男子(7.5%)より高い。なお,前記5,{1}の9施設で拒食や食べ吐きなどの異常な食行動を繰り返す摂食障害のある女子受刑者は,平成25年9月20日現在で,106人であり,医療刑務所では18人であったという。(194頁)
女子受刑者の再入所状況は,出所年平成20年を含む5年以内の累積再入率は30.5%であり(男子40.6%),さらに罪名別に見ると,5年以内の累積再入率は,窃盗が最も高く,45.1%であり(男子48.5%),ついで覚せい剤取締法違反が38.2%(男子50.7%)となっている。いずれも男子よりは低率であるが,窃盗は高い累犯性をもっていることが分かる。(6−4−1−10図)
女子の刑事施設は少数であるため,処遇グループによる施設分けが困難であるが,コラムに特性に応じた処遇が試みられていることが紹介されている。薬物依存離脱指導として,グループ指導,個別指導,ダルクミーティング等が実施されているという。窃盗犯に対しては,一般改善指導において,3か月間,月2回,認知行動療法を基盤としたグループワークが実施され,自己の問題行動の洞察を深め,問題解決への意欲の高まりに資しているという。(196頁)
また,高齢受刑者の増加に対応して,窃盗防止を意図した「行動適正化指導」として,認知行動療法を基盤とした指導プログラムが実施されているという。高齢受刑者の心身の健康の維持を目的とした「高齢者運動講座」も外部の専門家と連携し,実施されているという。
摂食障害を患う者が多いのが女子刑務所の悩みであるが,食事の様子の観察,身体チェック(食物の隠し持ち予防),総合栄養流動食の給与等慎重な対応がなされているという。
就労支援として,外部の保護観察所,公共職業安定所,協力雇用主,都道府県就労支援事業者機構等との連携による出所後の早期就労の調整努力がなされているという。(197頁)

{2} 女子少年院入院者 女子少年院は9庁と2つの医療少年院に女子区がある。
戦後女性犯罪の大幅な増加は,女子少年による犯罪の増加だとされたが,近年女子比は2割程度におちついている。20年間の推移をみると,女子少年院入院者は,平成13年まで増加傾向にあったが,その後減少傾向にあり,平成24年は292人であった。男子少年院入院者も減少傾向にあるが,女子の減少の程度がより大きく,平成24年の女子比は8.3%である。非行名別では,平成17年までは覚せい剤取締法違反が最も多かったが,18年以降は減少し,平成24年は,傷害・暴行が77人と最も多く,覚せい剤取締法違反は54人,窃盗が52人,ぐ犯が38人であった。(6−4−2−1図)
年齢層別構成比の推移では,年少少年の割合が増加し,年長少年の割合が低下しており,平成24年においては,年少少年25.0%,中間少年41.4%,年長少年33.6%となっている。(6−4−2−2図)
女子少年院入院者は,男子に比し,初等少年院,医療少年院の人員の比率が高い傾向は20年間一貫しているという。(199頁)
コラムに少年院の取り組みが紹介されているが,女子少年院入院者の特徴として,生育の過程で被害的で過酷な経験をしている者が相当数いるということから,総じて自己肯定感が希薄で,自分自身の過去及び未来に対して否定的なイメージを持っている者が多いとされる。そのため,個別担任による面接を多くして,集団処遇と組み合わせてきめ細やかな処遇実施を心掛けているという。
薬物非行に関する矯正プログラムとしては,3か月間の認知行動療法を基盤としたグループワークが実施されているという。(200頁)

6.更生保護

{1} 女子の保護観察対象者の動向
保護観察処分少年の20年間の推移をみると,平成14年まで増加傾向にあったが,平成15年から減少に転じ,女子比も平成19年から低下し,平成24年は11.9%である。少年院仮退院者も平成15年から減少傾向にあり,女子比も平成24年8.7%に低下した。仮釈放者は入所受刑者の増加に伴ってか,平成20年には平成5年の約2倍に増加し,その後減少に転じたものの23・24年と増加し,女子比は一貫して増加して, 平成24年は11.6%である。保護観察付執行猶予者は,平成13年から減少傾向にあったが,最近5年間は横ばいであり,女子比は増加傾向にあり,平成24年は14.7%である。(6−5−1−1図)
平成24年の保護観察終了事由をみると,保護観察処分少年は,男子に比較し,良好措置である解除で終了する者が多く(女子─82.7%,男子─74.5%),保護処分取消しで終了する者の比率は低い(女子─8.4%,男子─16.4%)。少年院仮退院者においても,女子は男子に比し,保護処分取消しで終了する者の比率は低い(女子─10.0%,男子17.8%)。仮釈放者は男女とも期間満了が大部分であるが, 仮釈放の取消しが女子は3.9%なのに比し,男子は4.6%である。保護観察付執行猶予者は,執行猶予の取消しになった者が女子は30.6%で,男子28.0%に比し若干多い。(6−5−1−2図)
終了時の就労・就学状況別に女子の保護観察終了事由をみると,無職の者は,保護観察処分少年においては,保護処分取消しで終了する者が28.9%(有職─4.4%,学生・生徒─8.5%,家事従事者─2.8%)と他に比し圧倒的に多く,仮退院者も保護処分取消しで終了する者が22.8%(有職─3.1%,学生・生徒─8.4%,家事従事者─1.5%)と多いのが分かる。仮釈放者においても, 無職の者は仮釈放取消しが8.0%(有職─2.0%,学生・生徒─0%,家事従事者─2.6%)あり, 保護観察付執行猶予者においては,無職の者は執行猶予の取消しで終了する者43.2%(有職─10.8%,学生・生徒─20.0%,家事従事者─21.0%)となっており,女子においても家事従事を含めた就労・就学の確保が重要であるとしている。(203頁)

{2} 女子の出所受刑者の特徴
女子の出所受刑者の仮釈放率は,男子に比較すると一貫して高い(平成24年─74.4%,男子─51.6%)が,平成7年から22年まで緩やかな低下傾向にあった。23年に上昇に転じている。(6−5−2−1図)
女子の仮釈放率を罪名別に見ると,最近10年間覚せい剤取締法は80%前後,窃盗は70%前後だという。年齢層別では,20歳代の者が80%前後,40歳代の者は75%前後,65歳以上の者は60%前後と年齢層の高い者ほど仮釈放率は低くなる傾向にあるという。(204頁)
女子出所受刑者の帰住先別構成比の推移を見ると,一貫して父母の比率が最も高いが,知人がわずかに増加し,更生保護施設の割合の低下が見られる。平成24年においては,父母─30.6%,配偶者─14.8%,更生保護施設─14.4%となっている。
出所事由別では,平成24年仮釈放で出た者の34.7%が父母,18.3%が更生保護施設となっており,その他は4.9%にすぎないのに,満期釈放においては,その他が29.8%ある。(6−5−2−2図)
平成24年の女子出所受刑者の内,出所時の年齢が65歳以上の者の帰住先を見ると,仮釈放者では,「その他の親族」─35.8%,「配偶者」─27.9%,「更生保護施設」─13.2%であり,満期釈放者では,「その他」─32.8%,「その他の親族」─24.6%,「社会福祉施設」─13.9%であったという。(205頁)
コラムに更生保護施設における処遇が紹介されている。 女子を対象とする更生保護施設では,処遇の基本方針として,@食事を全員で共にするなどの家庭的,文化的な処遇環境の下で在所者の情操を高め,A日常の挨拶,清掃や炊事当番,金銭管理などの生活指導を充実させて基本的な社会常識と健全な生活習慣を習得させ,B住居,就労の確保を図る,を掲げ,早期自立と社会復帰を支援している。多くの民間ボランティアの参加を得て,教育,教養行事を実施している。
就労指導として,仕事の探し方や面接の受け方などの個別指導,パソコン教室,メイク教室,服装教室,話し方教室といった集団指導が行われ,公共職業安定所や協力雇用主との積極的連携が図られている。
薬物事犯者に対しては,その指導の柱は,認知行動療法をベースにした薬物依存回復プログラムであり,半年間のプログラムを中心に,3年間を基本的な受講期間とする外部の専門家と連携した薬物離脱指導が平成24年に開始され,更生保護施設退所後も受講を継続することを原則とするという。
なお,女子の情緒不安定という特性に配慮し,心身の調和と自己統制力及び適切な自己表現力を養い,また,社会内での適切な対応力や常識的な金銭管理感覚を取得するための総合的処遇プログラムを@集団プログラム,ASSTによる就労指導,B金銭管理指導を指導の柱として実施しているという。
また,高齢者が増えて就労の機会が得にくいことなどを背景に,近隣農家の耕作地の無償提供,ボランティアによる農業指導,都道府県就労支援事業者機構の助成等を得て野菜作りに取り組んでおり,収穫物の販売代金は作業賃金として支払われる仕組みという。(206頁)

7.まとめ

{1} 全体的な動向
女子の犯罪は,男子と比べて数は少ないが,検挙人員,起訴人員及び入所受刑者人員が過去20年間というスパンでは増加し, 入所受刑者で男子以上に高齢化が見られるとする。そして,刑事手続のいずれの段階においても,窃盗と覚せい剤取締法違反が多く, 女子の再入者率も男子に比べ低いものの上昇傾向にあるとする。 女子少年院入院者については,平成13年をピークに減少しつつあるとする。(207頁)

{2} 窃盗事犯者
女子高齢者の万引き事犯者は,一般刑法犯検挙人員の8割を占め増加傾向にあることから,女子犯罪者の再犯防止対策としては,まず,万引き事犯者への効果的処遇のあり方を探ることであるとする。
万引き事犯者の規範意識の鈍麻が問題であるとして,規範意識が低下する前の段階,例えば初めて検挙されたときなどの初期段階で適切に対処し,規範意識を喚起させるとともに,万引きを繰り返させないための効果的な処遇を行うことが極めて重要だとしている。 罰金刑導入後の運用の現状と再犯状況の分析が必要だとしている。
平成21年版犯罪白書における窃盗の受刑者への調査から,女子の窃盗に至る背景事情は,年齢層にかかわらず,収入の問題と同程度に家族(交際相手を含む)とのトラブルを挙げる者,また体調不良を挙げる者が多かったとする。 このような女子特有の問題点を解明し,それに応じた処遇方策の確立の必要を説く。また,女子受刑者は男子に比し,婚姻歴を有する者の比率が高いことから, 直ちに家族・親族等の協力を得られない高齢者等の場合には,特別調整により福祉施設等への帰住の調整はもとより重要であるが,家族,親族等の理解を求め,その環境を最大限に活用していくことも重要としている。(207−209頁)

{3} 覚せい剤事犯者
女子入所受刑者では,29歳以下の若年層の半数以上を覚せい剤事犯者が占め,高校中退者の比率が高いとされ,平成20年の女子の出所受刑者の累積再入率を見ると,覚せい剤事犯者の累積再入率が窃盗に次いで高いという。そこで,これら若年者層の問題性に着目しつつ,薬物から離脱し, それを維持するための処遇策の確立が必要で,施設内の薬物依存回復プログラム,保護観察段階での薬物依存回復訓練の民間委託等をさらに充実・強化を図ることが重要としている。
また,女子の再犯防止にも就労の確保が極めて重要だとしている。(209−210頁)

{4} 矯正施設における処遇体制の充実・強化
女子刑務所の既決については,100%を超える状況が常態化している。それに加え,女子受刑者は,高齢者の増加とともに,精神障害を有する者の占める比率が高く,異常な食行動を繰り返す摂食障害のある者も少なくないなどの処遇の困難性を抱える。
これらの問題に対処するため,事例の集積や施設間の情報共有に加え,心理療法,医療や介護等の分野の外部専門家と積極的に連携することにより,対応のノウハウを積み重ねていくことが有効で,これら分野の専門職員の不足に対して, 民間の支援・助力を最大限に活用するとともに施設の拡充を含む処遇体制の充実・強化を図るべきであると締めくくっている。(210頁)

8.おわりに

この白書の特集は,法務総合研究所研究部報告48「女性と犯罪(動向)」がベースとなっている。そこでは,罪名別の女子検挙人員の推移も分析されている。この20年間で顕著な動きとしては,女子入所受刑者の増加であるが,その背景には当然起訴人員の増加があり,女性犯罪自体の変化が想定される。
殺人の平成22年の女子比は22.0%で一般刑法犯の女子比を上回り,寛大に扱われていた嬰児殺は著減の状況にあることから,より重い態様の女子による殺人が増加していることが窺える。強盗検挙人員も平成12年から女子比が上昇し,平成22年は6.9%となったという。
傷害検挙人員の女子比も平成10年以降7%を超えている。放火検挙人員も平成16年以降女子比が2割を超え,平成22年は24.3%となったという。また,窃盗においても侵入盗の女子比が上昇し,平成22年は9.1%であった。
このように,女子犯罪における重大犯罪の増加傾向が,ここで分析されている高齢窃盗事犯の増加等に加え,起訴人員,入所受刑者の著しい増加の背景要因の一つではないかと推察されるのである。
(専修大学名誉教授)


 本文中,(*頁),(**図)は,平成25年版犯罪白書の頁及び図表番号を示す。
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