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最近の犯罪動向と犯罪者の処遇 ─平成25年版犯罪白書から─
冨田  寛
 はじめに

(1)犯罪白書は,犯罪の防止と犯罪者の改善更生を軸として,刑事政策の策定とその実現に資するため, それぞれの時代における犯罪情勢と犯罪者処遇の実情を分析・報告している。平成25年版犯罪白書も, 平成24年を中心とした最近の犯罪動向及び犯罪者の処遇の実情を統計資料に基づいて概観した。 以下,本稿において,その要点を紹介する。

1 最近の犯罪動向

⑴ 刑法犯
ア 認知件数
平成24年における刑法犯の認知件数は,201万5,347件(前年比5.8%減)であった。 罪名別では,窃盗(構成比51.6%)が最も多く,次いで,自動車運転過失致死傷等(道路上の交通事故に係る自動車運転過失致死傷,業務上過失致死傷及び重過失致死傷。同31.4%)が多い。 刑法犯の認知件数は,平成14年(戦後最多の369万3,928件)をピークに10年連続で減少している。 主な要因は,例年,刑法犯の過半数を占める窃盗の認知件数が減少し続けていることにある(図1参照)。

図1 刑法犯 認知件数・検挙人員・検挙率の推移



一般刑法犯(刑法犯のうち自動車運転過失致死傷等を除いたもの)では,平成24年の認知件数は138万2,490件(前年比6.7%減)であった。 罪名別では,窃盗(構成比75.3%)が最も多く,次いで,器物損壊,横領(遺失物等横領を含む。),詐欺の順である。 窃盗以外の一般刑法犯の認知件数は,平成17年から減少しているが,平成5年と比べると,なお1.6倍の多さである。

イ 検挙人員と検挙率
平成24年における刑法犯の検挙人員は,93万9,826人(前年比4.7%減)であった。罪名別では,自動車運転過失致死傷等が7割近くを占めている。 刑法犯の検挙人員は,平成16年(戦後最多の128万9,416人)をピークに減少し続けている。一般刑法犯では,平成24年の検挙人員は28万7,386人(前年比6.1%減)であった。 平成24年における一般刑法犯の検挙率は,31.7%(前年比0.4pt上昇)であった。 一般刑法犯の検挙率は,平成13年に戦後最低の19.8%を記録したが,翌14年から上昇に転じ,平成18年からは横ばいで推移している。

ウ 主な罪名別の特徴
窃盗の認知件数は,平成14年(戦後最多の237万7,488件)をピークに減少し続けており,平成24年は104万447件(前年比8.2%減)であった。検挙率は,平成13年に戦後最低の15.7%を記録した後,翌14年から上昇に転じ,平成24年は27.5%(同0.6pt上昇)であった。
殺人の認知件数は,平成16年から減少傾向にあり,平成24年は1,030件(前年比2.0%減)であった。検挙率は,安定して高い水準にあり,平成24年は93.5%(同4.4pt低下)であった。
強盗の認知件数は,平成15年に7,664件(昭和20年代後半以降で最多)を記録した後,翌16年から減少傾向にあり,平成24年は3,685件(前年比0.4%減)であった。検挙率は,平成17年から上昇傾向にあり,平成24年は68.0%(同3.0pt上昇)であった。
強姦の認知件数は,平成15年に2,472件を記録した後,翌16年から減少していたが,平成24年は1,240件(前年比4.6%増)であった。検挙率は,平成14年に戦後最低の62.3%を記録した後,翌15年から平成20年まで上昇し,平成24年は88.5%(同4.7pt上昇)であった。
詐欺の認知件数は,平成17年(昭和35年以降で最多の8万5,596件)をピークに減少していたが,平成24年(3万4,678件)は微増した。検挙率は,平成16年に戦後最低の32.1%を記録した後,翌17年から上昇に転じ,平成21年以降は60%を超えていたが,平成24年は58.4%(前年比5.6pt低下)であった。なお,平成24年における振り込め詐欺(恐喝)を含む特殊詐欺は,認知件数が8,693件と前年から約2割増加し,被害総額が357億円以上と前年からほぼ倍増となった。

⑵ 特別法犯
平成24年における特別法犯の検察庁新規受理人員は,49万1,278人(前年比5.0%減)であった。 このうち,道交違反(道路交通法違反及び自動車の保管場所の確保等に関する法律違反)が39万6,000件であり,特別法犯全体の約8割を占める。 特別法犯全体の検察庁新規受理人員は,平成12年から連続して減少している。
道交違反による送致事件(非反則事件として送致される事件)の取締件数は,平成11年までは100万件超で推移していたが,翌12年から減少し続けている。特に酒気帯び・酒酔いは,過去20年間で10分の1に減少した(平成24年は3万2,140件)。
道交違反以外の特別法犯の検察庁新規受理人員は,平成13年から増加していたが,平成20年からはおおむね減少傾向となり,平成24年は9万5,278件(前年比1.6%減)であった。罪種別では,覚せい剤取締法違反等の薬物関係(構成比24.5%)や軽犯罪法違反等の保安関係(同17.9%)が多い。


2 犯罪者の処遇

⑴ 検察
平成24年における検察庁終局処理人員(少年事件を含む。)は,142万1,514人(前年比4.4%減)であった。処理区分別では,起訴猶予(構成比55.5%)が最も多く,次いで,略式命令請求(同24.5%),家庭裁判所送致(同8.2%),公判請求(同6.8%),その他の不起訴(同5.0%)の順であった。起訴率は34.0%(前年比1.0pt低下)である。公判請求人員は,平成7年から毎年増加していたが,平成17年から減少に転じ,平成24年は9万6,263人(同5.4%減)であった。
⑵ 裁判
平成24年における裁判確定人員は,40万8,936人(前年比5.4%減)であった。そのうち,罰金刑(34万4,121人)が圧倒的に多い。有期懲役刑(5万8,215人)の執行猶予率は56.4%であった。また,無罪確定者は82人(裁判確定人員総数の0.02%)であった。裁判確定人員は,平成12年から減少し続けており,過去10年間で半減している。主な要因は,道交違反の減少にある。 罪名別に通常第一審における終局処理人員(平成24年)を見ると,地方裁判所(総数5万5,924人)では,窃盗が1万1,936人(構成比21.3%)と最も多く,次いで,覚せい剤取締法違反1万452人(同18.7%),道交違反6,562人の順であった。簡易裁判所(総数8,110人)では,窃盗が6,730人(構成比83.0%)と最も多い。
裁判員裁判対象事件の第一審における判決人員(平成24年)は1,500人であった。そのうち,無罪が9人,死刑が3人,無期懲役が39人であった。また,有期懲役刑のうち112人が単純執行猶予,116人が保護観察付執行猶予であった。

⑶ 矯正
平成24年における入所受刑者の人員は,2万4,780人(前年比2.8%減)であった。総数では平成19年から減少し続けているが,65歳以上の高齢者は増加しており,また,女子は高止まりの状況にある。 罪名別に見ると,平成24年の入所受刑者の構成比では,男女ともに,窃盗が最も高く(男子33.2%,女子41.3%),次いで,覚せい剤取締法違反(男子24.8%,女子38.6%),詐欺(男子7.9%,女子6.1%)の順であった。なお,女子の入所受刑者の人員は,平成23年までは,覚せい剤取締法違反が最も多く,次いで窃盗の順であったが,近年窃盗の増加が著しく,平成24年に窃盗が最多となった。
平成24年末の刑事施設における被収容人員は,6万7,008人(前年末比4.1%減)であり,収容率(既決)は82.2%(同3.5pt低下)であった。収容率は,平成17年から低下し続けているが,女子(既決)は収容定員を上回る状態が続いている。

⑷ 更生保護

保護観察付執行猶予者の保護観察開始人員は,平成13年から減少傾向にあり,平成24年は3,376人であった。もっとも,執行猶予者の保護観察率(執行猶予言渡人員に占める保護観察付執行猶予言渡人員の比率)は,平成21年から連続して上昇しており,平成24年は9.4%(前年比0.2pt上昇)であった。
仮釈放者の保護観察開始人員は,平成17年からやや減少傾向にあったが,平成23年から若干増加しており,平成24年は1万4,700人であった。出所受刑者の仮釈放率は,平成17年から6年連続で低下していたが,平成23年から上昇に転じ,平成24年は53.5%(前年比2.3pt上昇)であった。
3 少年非行

少年による刑法犯の検挙人員(触法少年の補導人員を含む。)は,平成16年から毎年減少し続けており,平成24年は10万1,098人(前年比12.9%減)であった。少年人口比(10歳以上の少年人口10万人当たりの刑法犯検挙人員)も,同年から毎年低下している。少年による一般刑法犯の検挙人員の罪名別構成比では,窃盗,遺失物等横領の順に高く,これら2罪名で全体の76.1%を占める。
少年保護事件の家庭裁判所新規受理人員も,近年減少傾向にあり,平成24年は13万2,142人であった。少年鑑別所の入所者の人員も,平成16年から9年連続で減少している。
少年院入院者の人員は,最近20年間では,平成12年(6,052人)をピークに減少傾向にあったが,平成24年は3,498人(前年比12人増)であった。 保護観察処分少年(家庭裁判所の決定により保護観察に付されている者)の保護観察開始人員は,平成3年から減少傾向にあり,平成24年は2万2,557人であった。少年院仮退院者の保護観察開始人員も,平成15年から減少傾向にあり,平成24年は3,421人であった。


4 各種犯罪者の動向

⑴ 再犯者

一般刑法犯により検挙された者のうち,再犯者(前に道路交通法違反を除く犯罪により検挙されたことがあり,再び検挙された者)の人員は,平成19年から漸減しており,平成24年は13万77人(前年比2.7%減)であった。他方,再犯者率(検挙人員に占める再犯者の人員の比率)は,再犯者の人員の減少以上に初犯者の人員が減少しているため,平成9年から一貫して上昇しており,平成24年は45.3%(前年比1.6pt上昇)であった(図2参照)。

図2 一般刑法犯 検挙人員中の再犯者人員・再犯者率の推移



入所受刑者のうち,再入者の人員は,平成18年(1万6,528人)をピークにわずかながら減少傾向にあり,平成24年は1万4,505人(前年比0.9%減)であった。他方,再入者率(入所受刑者人員に占める再入者の人員の比率)は,平成16年から上昇し続けており,平成24年は58.5%であった。
平成20年の出所受刑者について,出所年を含む5年以内の累積再入率(各年の年末までに再入所した者の累積人員の比率)を見ると,総数で39.8%であり,仮釈放者(28.9%)より満期釈放者(50.8%)の方が高い(図3参照)。罪名別では,覚せい剤取締法違反(総数49.3%)と窃盗(同48.3%)が高い。平成14年から平成23年の各年の出所受刑者について,出所年を含む2年以内の累積再入率を見ると,平成18年以降わずかながら低下していたが,平成23年の出所受刑者(同19.4%)では若干上昇した(前年比0.2pt上昇)。

図3 平成20年出所受刑者の5年以内累積再入率(出所事由別)




⑵ 暴力団犯罪者
暴力団構成員等(暴力団構成員及び準構成員その他の周辺者)の検挙人員(一般刑法犯及び交通法令違反を除く特別法犯に限る。)は,平成15年まで3万人台で推移していたが,翌16年からは3万人を下回り,平成24年は2万4,139人(前年比8.1%減)であった。罪名別では,覚せい剤取締法違反が最も多く,次いで,傷害,窃盗,詐欺,恐喝の順であった。検挙人員総数に占める暴力団構成員等の占める比率は,全体で6.8%であり,罪名別に見ると,一般刑法犯では,賭博,逮捕監禁,恐喝で高く,特別法犯では,競馬法違反,自転車競技法違反,覚せい剤取締法違反で高い。

⑶ 薬物犯罪者
覚せい剤取締法違反(覚せい剤に係る麻薬特例法違反を含む。)の検挙人員は,減少傾向にあるものの,毎年1万人を超える状況が続いており,平成24年は1万1,842人であった。
平成24年における大麻取締法違反(大麻に係る麻薬特例法違反を含む。)の検挙人員は,1,692人であった。年齢層別に見ると,20歳代の者が多く,全検挙人員の44.6%を占めている。

⑷ 高齢犯罪者
高齢者(65歳以上の者)の一般刑法犯の検挙人員は,他の年齢層と異なり,増加が著しく,平成24年は4万8,559人であり,平成5年の約5.2倍となった。年齢層別の構成比では,高齢者が16.9%を占めた。高齢者の検挙人員の人口比(高齢者の人口10万人当たりの一般刑法犯検挙人員)も,他の年齢層と比べて上昇が著しく,平成24年は平成5年の約3倍であり,高齢犯罪者の増加は高齢者人口の増加をはるかに上回っている。高齢者の検挙人員は,窃盗の増加が著しく,平成24年は3万5,659人と,平成5年の約5.5倍であった。また,粗暴犯である傷害と暴行も著しく増加している。罪名別の構成比では,高齢者は全体と比べても窃盗の割合が高く,特に女子の高齢者では,約9割が窃盗であり,しかも万引きによる者の割合が約8割と際立って高い。
高齢者の入所受刑者の人員は,最近20年間,ほぼ一貫して増加しており,平成24年(2,192人)は平成5年と比べて5.6倍に激増している。高齢者率(入所受刑者総数に占める高齢者の比率)も,ほぼ一貫して上昇している(平成24年は8.8%)。また,高齢者は,入所受刑者全体と比べて,再入者の割合が高い(図4参照)。

図4 高齢者の入所受刑者人員の推移(入所度数別)




⑸ 精神障害のある犯罪者等
平成24年における精神障害者等(精神障害者及び精神障害の疑いのある者)の一般刑法犯検挙人員は,3,460人(精神障害者1,799人,精神障害の疑いのある者1,661人)であり,罪名別では窃盗(37.9%)が最も多かった。また,同年における一般刑法犯検挙人員の総数に占める精神障害者等の比率は,1.2%であり,罪名別では,放火(20.1%)及び殺人(16.2%)において高かった。


4 各種犯罪者の動向


人が被害者となった一般刑法犯の認知件数及び被害発生率(人口10万人当たりの認知件数)は,いずれも平成15年以降,減少・低下している。男子の被害発生率は,女子の2倍以上である。
児童虐待に係る事件は,検挙件数・人員とも,顕著な増加傾向にある(平成24年は472件・486人)。平成24年における児童虐待に係る事件について,被害者と加害者との関係(加害者の立場)を見ると,全体では,父親等によるものが378人(77.8%)と多いが,殺人及び保護責任者遺棄では,母親等によるものがそれぞれ26人(83.9%),9人(64.3%)と多かった。
(法務総合研究所研究官)
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