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平成27年版犯罪白書「特集 性犯罪者の実態と再犯防止(第1章から第3章)」を読んで
矢野 恵美
1 はじめに 性犯罪と犯罪統計
 平成27年版犯罪白書の特集は「性犯罪者の実態と再犯防止」である。この時期に,性犯罪を特集し,認知件数に始まる司法手続の各段階における統計のみならず,現在の性犯罪規定下における性犯罪者の実態を詳細に調べることには大きな意義があると考える。
 犯罪統計は,現実に社会で起こる犯罪そのままの姿ではない。そこには必ず,公的機関の統計に載らない,警察に認知されない「暗数」が存在するからだ。しかし,この「暗数」の大きさは,犯罪の内容や,社会の事情によって左右される。例えば,殺人を考えた場合,被害者本人が通報することはできないが,犯人を除いて,人が亡くなっているのをみつけた場合,多くの人は警察や消防署(救急車)に通報するだろう。自身が被害者である場合,通常,窃盗より強盗のように,被害が大きいとされるほど,通報率が上がり,暗数が少なくなると考えられている。
 それに対して,性犯罪は,PTSDとの関わりも強く,被害は大きいと考えられているが,暗数が非常に多い特殊な犯罪である。この背景には,日本では性犯罪被害にあうことは恥ずかしいことだと考えられているということがある。これが日本の性犯罪が親告罪であるそもそもの所以でもある。人に知られることは被害者にとって恥ずかしいことなので,告訴をするかどうかは被害者に委ねられる(旧刑法時には親族の判断に委ねられていた。)。このため,性犯罪が公式統計に載るまでには,被害者自身の選択,被害者を取り巻く人々の考え,警察官や検察官の対応等の要因が大きく影響を及ぼす。性犯罪では公式統計に載るに至った数字は実際の犯罪のごく一部であると知った上で,統計を見る必要がある。このため,性犯罪については,内閣府男女共同参画局が定期的に行う「男女間の暴力に関する調査」や,犯罪被害実態(暗数)調査(ICVS)における「性的な被害」等,警察に届けたかどうかに関わらず,被害者に状況を聞くタイプの調査の結果にも目配りする必要がある。これらの調査からは,被害者が回答している内容が刑法における性犯罪と言えるかどうかは必ずしも定かではないが,認知されるに至らない性犯罪被害の状況を知る手がかりとはなるからである。性犯罪の暗数の多寡は,性犯罪被害が恥ずかしいので,届けないと言う考えがその社会にどの程度根付いているかに左右されるので,長期間にわたる国内における認知件数の推移については,この点に変化がなかったか,国際比較の際には,この考えについて国による違いはないかも考慮する必要がある
 性犯罪の犯罪統計は,刑法における犯罪の定義づけにも大きく左右される犯罪である。現在,日本の個人法益に対する性犯罪の中核をなすのは,強姦罪と強制わいせつ罪である。いずれも暴行・脅迫を要件としているが,男性器の女性器への挿入のみが強姦で,その他の性的行為は強制わいせつにあたると解釈されている。犯罪の定義づけによって,犯罪統計が変化することはどの犯罪も同じであるが,日本の強姦の定義は世界的に見ても狭く,強姦概念に関して法改正が進んでいる国が多く,下で述べるように,日本でも法律が改正される可能性が大きい。性犯罪の定義,性犯罪の分類が変わると,犯罪統計の連続性が切れることが予想される。国内における長期間の認知件数の推移や,国際比較の際には,犯罪の定義の変化にも注意が必要である(例えばA国とB国で強姦の定義が全く異なっていて,片方では被害者に男性を含むとういうことであれば比較は難しい。)。
 現在,日本で使用されている性犯罪規定は,いくつかの改正は経ているものの,基本的に100年以上前の規定(明治41年施行)に依っている。平成26年10月に「性犯罪の罰則に関する検討会」が立ち上がり,平成27年8月には取りまとめ報告書が出され,11月からは法制審議会における審議が始まった。これにより,100年以上の時を経て,ようやく日本の刑法規定も大きく変わる可能性が出てきた。改正の大きな部分には,性犯罪の非親告罪化と,性犯罪規定の大幅な変更が含まれるようである。これらは犯罪統計に大きな変化をもたらす可能性があり,性犯罪規定の改正は,刑務所における特別改善指導対象者の犯罪の内容によるスクリーニングや,保護観察における性犯罪者の類型別処遇の類型にも影響を与える可能性がある。刑法の大きな改正を前に,性犯罪に関する様々な点を調べておくことには非常に大きな意義がある。
 他方,矯正・保護の分野においては,平成16年の奈良女児殺害事件において,加害者が子どもに対する性犯罪で受刑経験があったことを1つの契機として,平成18年度から特別改善指導の1つとして性犯罪再犯防止指導(R3)が実施されている。保護観察においても平成18年から,性犯罪者処遇プログラムが実施されている。両者はここ約10年の間に,様々な試行錯誤がなされ,平成24年の効果検証ではいずれも効果ありとされている。この機会にこれらの実績をまとめることにも大きな意義があると言える。
 以下,性犯罪の特殊性にも留意しながら,特集の内容を見ていきたい。

2 認知件数の推移10
 日本では,強姦の認知件数は,昭和39年に戦後最多の6857件を記録した後,減少の一途を続け,平成9年から15年にかけて再び増加したものの,2472件にとどまっている。一方,強制わいせつについては,平成に入り,増加し,平成15年には過去最多の1万29件を記録している。また,強姦は検挙件数も一貫して高い。これは警察の努力もあると思われるが,被疑者が顔見知り以上であるためとも思われる。一方,強制わいせつは認知件数の増加ほど検挙件数は増加しておらず,顔見知りでない犯行が通報されるようになり,検挙が困難な事例が増えたからという可能性がある。これは,犯行態様において,強姦は住宅,ホテル・飲食店等の屋内が7割を占め,屋外が2割を切るのに対し,強制わいせつでは屋外が半数を超えていることからもうかがわれる11
 性犯罪が親告罪である背景から考えても,ICVSや内閣府の調査結果から見ても,性犯罪の通報率は決して高くないと思われる。さらに一般的に,顔見知り以上の関係の性犯罪の通報率は低いと言われているにもかかわらず,過去に強姦罪の認知件数が非常に多かったことは文化的背景も含め興味深い。
 本特集では,迷惑防止条例違反の痴漢事犯及び電車内における強制わいせつ事犯,迷惑防止条例違反の盗撮事犯の認知件数も掲載されているが,前者は平成18年から,後者は26年のみの数字である。前者については,厳しく対応されてこなかった電車内の痴漢行為が厳しく対応されるようになって,実数が減ったのかどうかが気になるところである。後者は,スマートフォン等の普及から増加が予想される犯罪形態である。盗撮は性犯罪であり,被害者の傷は大きいにもかかわらず,刑法に規定がない,被害者が気づいていないケースが多い等の事情から,深刻な犯罪としての分析が難しい面がある。今回の特集を機に今後の分析を期待したい。

3 認知件数段階における被疑者・被害者の関係と被害者の年齢
 認知件数段階において,強姦と強制わいせつのいずれも,検挙人員中の未成年者はここ30年余りで減少しているが,20〜29歳及び30〜39歳は一貫して5から6割を占め,平成26年では,有職者が7割近い(これは一般刑法犯全体に比べて非常に高い。)点は共通しており12,この点では似たような犯罪者像がうかがわれる。しかし,前述したように強姦は圧倒的に屋内で行われることが多く,強制わいせつでは屋外が多い。それと呼応して,強姦では加害者と被害者が「面識あり」が多く(平成26年では45.1%),強制わいせつでは「面識なし」が多い(平成26年で73.3%)。被害者の年齢は強姦,女子が被害者の強制わいせつでは20〜29歳が多く,男子が被害者となる強制わいせつでは0〜12歳が6割近い13
 但し,現在,性犯罪については告訴期間が撤廃され,公訴時効期間内は告訴ができるようになっている。そのため,認知件数段階の被害者の年齢が,事件当時の年齢であるかどうかはこの統計上からは判断ができない。検察段階における不起訴人員の理由別構成比において,強姦では「嫌疑不十分」が約半数を占め,強制わいせつでは「告訴の取消し等」が半数を超えている14。強姦の嫌疑不十分の裏には,屋内の犯行が多いことから,証人がいない,捜査が困難であること等から嫌疑不十分となった可能性もあるが,事件直後の通報ではない可能性も考えられるところである。
 被害者と被疑者の関係のここ20年における推移の中では,強姦,強制わいせつのいずれにおいても,「親族」の数が増えてきたことが注目される(平成26年で強姦は5.8%,強制わいせつで2.0%)15。これは実数の増加を反映したものではなく,事件が表面化する数の増加を表しているのだと思われる。前出の内閣府の男女間の暴力に関する調査では16,親・兄弟その他の親戚が占める割合は平成26年調査17では8.5%であり,認知件数における割合よりも高い。さらに,この調査では,配偶者・元配偶者が19.7%を占めている。同調査からは,性犯罪の多くは,顔見知り以上の関係の間柄で,屋内で起こっている様子が見える。そして,その多くはどこにも誰にも相談されていない(平成26年の調査で67.5%)。その最大の理由は,「恥ずかしくて誰にも言えなかったから」(38.0%)である。誰かに相談した者のうち,警察に相談・通報した者は4.3%である。性犯罪の認知件数は被害通報率と大きな関わりがあり,日本ではまだまだ通報されない性犯罪が多い。

4 裁判員裁判における科刑状況
 裁判員裁判の導入の際に,陪審制度と関係して,職業裁判官の事実認定については,社会の諸情勢と乖離しているという意見も挙げられた18。性犯罪裁判における裁判員裁判の量刑の重さが報道されたこともある19。しかし,本特集で見る限り,強姦致死傷で,科刑が3年以下のグループから15年以下のグループまで,強制わいせつ致死傷では3年以下のグループから7年以下のグループまで,中央部分が大きくなり,20年以下のグループ,10年以下のグループという重いグループについてはむしろ裁判官裁判の方が割合が大きい20。この問題については,白書も指摘するように,現段階では「比較する事件数に違いがあるほか,裁判時期も異なるため,科刑状況を厳密には比較できない」が大まかな傾向はみることができるとされている。今後も分析を進める必要があると思われる。

5 刑事施設における性犯罪者
 刑事施設における入所受刑者における性犯罪者の動向を見ると(平成7年から26年で見る),認知件数の動向と同様,強制わいせつによる入所者が増え,強姦,強制わいせつともに29歳以下と30〜39歳を合わせた人員の割合が高い。初入の者の割合が顕著に高い。また,住居不定の者の割合が低く(平成22年から26年の累計),強姦,強制わいせつ共に,未婚の割合が高く,離死別の割合が低い。しかし,年齢層別では,強姦,強制わいせつ共に,50歳以上の者に配偶者(内縁関係にある者を含む。)が有る割合が高く,強制わいせつの高齢者では顕著に高い。また,有職者の割合は全ての年齢層で高く,とりわけ再入者の有職率は非常に高い。この他,教育程度でも,高校卒業,大学(在学,中退,卒業)の割合が高く,仮釈放者,満期釈放者共に,父・母のもとに帰住する者の割合が顕著に高い(以上,比較対象は入所受刑者総数。)21
 これらの数字から見えてくるのは,全体として,性犯罪による受刑者は,社会生活にはある程度適応できている者が多く,性に関する部分のみが逸脱しているということである。つまり,こういった者は,刑務作業によって規則正しい生活を身につけさせること自体にあまり処遇効果が期待できず,それだけでは,それまでの生活習慣に従って刑務所内で無事に過ごし,早期に仮釈放されてしまい,再犯防止への働きかけがないことになってしまう。これらの受刑者には,特別改善指導による性についての考え方(認知)への働きかけが再犯防止に有効であることが予想され,平成16年度以降の処遇の方向性が正しいことを裏付けていると言える。

6 再犯・再非行
 再犯・再非行については,前罪と再犯が同種の場合が重要になると思われる。そこで,検挙段階ではなく,平成7年から26年の再入者の前刑罪名別の累計で見てみたい。強姦は27.7%(強制わいせつを加えると35%),強制わいせつは32.3%(強姦を加えると45.5%)が同種罪名で受刑している。これは,窃盗(73.8%),覚せい剤取締法違反(72.8%)ほど高くはないものの,殺人の8.6%,強盗の13.5%よりははるかに高い22。一方,前述のように,性犯罪受刑者については,性の部分に関する逸脱がある者が多いため,特別改善指導の受講が重要であることがうかがわれる。そのため,今後もプログラムの中身を検証し,一層発展させていくことが重要であろう。

7 再犯防止に向けた各種施策等23
 再犯防止に向けた各種施策については,前述もしたように,刑事施設では「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」の特別改善指導として平成18年度から,保護観察でも平成18年から性犯罪者処遇プログラムが始まっている。そして,少年院においては,以前から問題群別指導として性非行を扱っていた部分があったが,平成27年の少年院法施行により,特定生活指導として全国で実施されることとなった。
 (1) 刑事施設の状況
 刑事施設の状況を見ると,海外の性犯罪処遇プログラムでは,性に関する認知の歪みに働きかけるためには,健全な社会の代表として,男女1人ずつ2人の職員が指導に当たることを原則にしている国が多いように思われるが,日本の刑事施設においては,原則として同性の刑務官が勤務していること,異性の職員の身の安全が心配されること等から,男性の指導者のみで実施されていたこともあった。しかし,現在では民間の協力者を入れる等の手立ても講じながら(職員と民間の処遇カウンセラーの組み合わせ等),男女ペアでの指導にあたっているようで,以前の不安材料は解消されている。
 さらに,日本では自ら受講を希望して手を挙げた者にプログラムを受講させるという方式はとっていないため,受講動機の低い者への効果についても問題になっていた(しかし,それでも,もちろん受講させないよりは意味がある。)。この点については,平成23年から動機付け面接の理論を活用した個別面接形式の事前指導(プレ・プログラム)が実施されていたが,グループワークの形式での「準備プログラム」も開発され,平成26年からは高密度及び中密度の指導対象者に本格的に実施されているとのことである。さらに,プログラムを受講するには,一定の知的能力が求められ,それに達しない者については実施できないと言う問題点があったが,イラスト等の視覚情報を効果的に取り入れる,SSTや金銭管理等の補助科目を必要に応じて実施する等の「調整プログラム」が開発されている。さらに,刑期が短い等の理由で受講期間が十分に確保できない者についての「集中プログラム」も開発されているとのことで,この約10年の間に目覚ましい発展を遂げている。
 平成24年には効果検証もなされ,「「全ての犯罪」において再犯率が低く,同指導に一定の効果が認められた。」とのことで24,今後一層の発展が期待される。
 (2) 保護観察の状況
 保護観察段階についても,様々な努力と発展の様子がうかがえる。刑事施設と大きく異なる点としては,本件処分の罪名又は非行名に関わらず,犯罪・非行の原因・動機が性的欲求に基づく者(のぞき・盗撮,下着盗,性器露出,性的欲求に起因するストーカー行為,痴漢行為による迷惑防止条例違反等をした者)も「性犯罪等対象者」の類型に認定していることがある。これらの行動は,性犯罪であると考えられ,常習性がある可能性もあるものの,必ずしも刑法に規定がないことから,刑事施設処遇に至らないことも多く,これらの者がフォローされている点が非常に意義が大きい。
 また,保護観察段階では,「性犯罪等対象者」の類型に認定された者の家族のうち,同意を得られた家族に対して,コア・プログラムの概要について説明し,家族から必要な協力が得られるようにするほか,家族を精神的にサポートすることにより,家族の苦痛を軽減させて,更生の援助者としての家族の機能を高めることを目的として実施している「家族プログラム」がある。性犯罪者の特徴の1つとして,家族とのつながり(特に父・母)がある者が多いが,家族とのつながりがある中で,犯罪がなされているので,家族にも問題を理解してもらう,家族を精神的にサポートすることは,性犯罪者の再犯防止において,非常に重要なことだと思われる。
 保護観察における性犯罪処遇プログラムについても,平成24年に効果検証がなされており,その効果が検証されている25
 刑事施設で実施されるプログラムはカナダに源流があり,保護観察で実施されるプログラムはイギリスに源流があると言われていた。どちらか一方でしかプログラムを受講しない者については問題がないものの,連続して受講する者は,根本の考え方は共通するが,単語の使い方等に違いがあり,若干の不安もあったところであったが,現在は,「施設内及び社会内における性犯罪者処遇の一貫性を保ち,処遇の実効性を高めることを目的として,刑事施設において実施した性犯罪再犯防止指導の実施結果及び保護観察所において実施した性犯罪者処遇プログラムの実施結果を相互に引き継いでいる26」とのことで,この点の不安も解消されているようである。

8 私見と今後の展望
 今回,特集を読んで,とりわけ,再犯防止に向けた各種施策の発展の目覚ましさが目をひいた。この約10年間に,法務省本省,各現場の大変な努力がなされた結果であると思う。また全体として制度化される(例えば刑事施設の特別改善指導)ことの重要性も痛感するものである。
 今後性犯罪者対策として考えうることとしては,刑事施設においては,@犯罪時に家族とのかかわりがあり,帰住先も家族になっている者も多いことから,保護観察段階を待たずに,サポートを含め,家族に働きかけることができるか。A家族が被害者となっているケースにおいて,家族との面会の可否等を配慮をする人員を施設に配置することができるか,面会の頻度の可否,頻度等を性犯罪プログラムの受講の成果と連動させることが可能か,Bとりわけ子どものとの面会について,子どもが被害者であるかも含め,個別に可否等を判断する人員配置,そもそも面会に関する基準作りをするか等の点がありうるのではないか。また,C配偶者や元配偶者,交際相手等への性犯罪(いわゆるDVのうちの性的暴力)に関係して受刑している者に,親しい間柄での人間関係の構築方法とリンクした性犯罪処遇プログラムを使用するか,使用するとして,スクリーニング段階でそのような要素を考慮するか等の点も考えうるように思う。以上の点は,既に取り入れている施設もあるかもしれないが,全体の施策として考慮するかどうかである。
 また,白書にも記載のあるように,迷惑防止条例違反者(特に痴漢)に対する効果的なプログラムの開発も必要であると思うし27,盗撮行為等が含まれている者に対してのプログラムにも配慮をして頂けたらと思う。但し,盗撮については刑法に規定がないため,繰り返していたとしても,それだけで刑事施設収容になる可能性が低く,これだけで保護観察付き執行猶予に付されることも少ないと言う現状について,社会全体での議論も必要であろう。
 保護観察については,白書にあげられているように,更生保護施設で対象者を受け入れた場合の国の支弁費用の加算が重要であるが,性犯罪については,社会内では長期の支援も必要であることが予想されるので,人権侵害にならないよう配慮しながら,保護観察期間の延長,更生保護施設滞在の延長についても,考えて頂けたらと感じた。この点は必ずしも性犯罪者に限らず,薬物依存関係のプログラムにも同様のことが言えよう。
 さらに,性犯罪が非親告罪になることによって,性犯罪の認知件数はどうなっていくのか。性犯罪の規定が変わり,性犯罪の分類方法が変わることによって,性犯罪の認知件数はどう変わるのか。それによって性犯罪者の実態は変わるのか。例えば顔見知り以上の関係の加害者が増えるのか。等を改めて特集して頂ければと思う。
 そもそも,日本の犯罪白書は出版が長期に渡り,かつ頻度が高く定期的である28。加えて現在の白書は,特集を含む内容の豊富さと水準の高さが世界に誇れるものである。確かに,毎年の犯罪白書の内容は報道でも取り上げられ,注目を集めているが,日本の犯罪白書そのものの価値の高さが社会に知られているとはまだまだ言い難いように思う。また,今回の特集である性犯罪の再犯防止の取組,特に刑事施設や保護観察における再犯防止に向けたプログラムが様々な試行錯誤を経て実施されていることは,社会に知られているとはまだまだ言えない。今後は,適切な形で,日本の犯罪白書の水準の高さや,性犯罪再犯防止への取組がより広く社会に知られるようになることを切望する。
(琉球大学大学院法務研究科教授)

1 例えば,Ronald C. Kessler, PhD; Amanda Sonnega, PhD; Evelyn Bromet, PhD; Michael Hughes, PhD; Christopher B. Nelson, MPH, PhD. ’Posttraumatic stress disorder in the National Comorbidity Survey.’Arch Gen Psychiatry. 1995;52(12):1048-1060.
2 http://www.moj.go.jp/content/001130493.pdf 1頁。
3 http://www.gender.go.jp/e-vaw/chousa/h11_top.html
4 日本が参加した第4回犯罪被害者実態(暗数)調査結果
  http://www.moj.go.jp/housouken/housouken03_00066.html
5 例えば,スウェーデンの性犯罪認知件数はヨーロッパでも屈指である。これは通報率の高さと,いわゆる「レイプ」概念の広さと関係していると考えられている。拙稿「北欧における性犯罪規定とその対策」罪と罰50巻4号(2013年)参照ください。
6 http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00090.html
7 http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00122.html
8 http://www.moj.go.jp/content/001162242.pdf
9 平成27年版犯罪白書259頁以下。
10 平成27年版犯罪白書211頁,212頁。
11 平成27年版犯罪白書218頁。
12 平成27年版犯罪白書216,218頁。
13 平成27年版犯罪白書220,221頁。
14 平成27年版犯罪白書224頁。
15 平成27年版犯罪白書220頁。
16 http://www.gender.go.jp/e-vaw/chousa/h26_boryoku_cyousa.html「異性から無理やりに性交された経験」但し,男性から女性への被害のみ。
17 平成26年度報告書。
  http://www.gender.go.jp/e-vaw/chousa/images/pdf/h26danjokan-8.pdf
18 http://www.kantei.go.jp/jp/sihouseido/dai30/30bessi4.html
19 例えばhttp://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_soc_saiban-trialstaff-ryokeibunpu
20 平成27年版犯罪白書225,256頁。
21 平成27年版犯罪白書229頁−236頁。
22 平成27年版犯罪白書252頁。
23 平成27年版犯罪白書259頁以下。
24 詳細は平成27年版犯罪白書261頁参照。
25 詳細は平成27年版犯罪白書268頁参照。
26 詳細は平成27年版犯罪白書263頁参照。
27 平成27年版犯罪白書261頁。
28 さらに,以前の物から最新のものまで法務省のHPからアクセスすることができることは非常に重要である。http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/nendo_nfm.html
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