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平成27年版犯罪白書 〜性犯罪者の実態と再犯防止〜
池田 暁子
はじめに
 犯罪白書は,犯罪の防止と犯罪者の改善更生を軸とした刑事政策の策定とその実現に資するため,犯罪動向と犯罪者処遇の実情を分析・報告している。平成27年版犯罪白書も,平成26年を中心とした最近の犯罪動向や犯罪者処遇の実情等を概観するとともに,国民が身近に不安を感じ,社会的関心の高い犯罪の一つである性犯罪に着目し,「性犯罪者の実態と再犯防止」と題した特集を組んでいる。以下,本稿において,その要点を紹介するが,紙幅の都合上,割愛・要約した用語の定義・出典等や,抜粋の便宜上白書の章建てとは異なる順序で紹介した箇所もあるため,全体像としての理解の上では,白書を参照されたい。なお白書中の図表等の取捨選択及び白書からの直接の引用を超える分析は本職の個人的な見解である。

1 最近の犯罪動向
(1) 刑法犯・一般刑法犯
 ア 認知件数
 平成26年における刑法犯の認知件数は,176万2,912件(前年比8.1%減)であった。罪名別では,窃盗(構成比50.9%)が最も多く,次いで,自動車運転過失致死傷等(同31.2%),器物損壊(同7.2%)の順であった。刑法犯の認知件数は,平成14年(戦後最多の約369万件)をピークとして,その後は毎年減少しており,平成26年は,ピーク時の平成14年から半減した(図1(白書1-1-1-1図)参照)。
 一般刑法犯(刑法犯全体から自動車運転過失致死傷等を除いたもの)の平成26年の認知件数は,121万2,654件(前年比7.7%減)であった。
 イ 検挙人員と検挙率
 平成26年における刑法犯の検挙人員は,81万9,136人(前年比7.4%減)であった。罪名別では,自動車運転過失致死傷等(構成比69.3%)が最も多く,次いで,窃盗(同16.1%),横領(同3.3%)の順であった。刑法犯の検挙人員は,平成16年(戦後最多の約129万人)をピークとして,その後は毎年減少している。
 一般刑法犯では,平成26年の検挙人員は戦後最少の25万1,605人(前年比4.3%減)であった。年齢層別では,20歳未満の少年の割合(19.4%)が最も高く,次いで,65歳以上の高齢者(18.8%)であった。少年の割合は平成7年から半減しているのに対し,高齢者の割合は同年の約4.8倍となっており,検挙人員の高年齢化が進んでいる(図2(白書1-1-1-6図)参照)。
 平成26年の検挙率は,刑法犯が52.3%(前年比0.2pt上昇),一般刑法犯が30.6%(同0.6pt上昇)であった。検挙率は,刑法犯・一般刑法犯共に,平成18年以降は横ばいで推移している。

図1 刑法犯 認知件数・検挙人員・検挙率の推移


注1 警察庁の統計による。
  2 昭和30年以前は,14歳未満の少年による触法行為を含む。
  3 昭和40年以前の一般刑法犯は,業過を除く刑法犯である。


図2 一般刑法犯 検挙人員の年齢層別構成比の推移


注1 警察庁の統計及び警察庁交通局の資料による。
  2 犯行時の年齢による。


 ウ 主な罪名別の特徴
 殺人の認知件数は,平成16年から減少傾向にあり,平成25年(938件)は戦後最少を記録したが,平成26年は1,054件(前年比116件(12.4%)増)であった。検挙率は,安定して高い水準(26年は95.8%)にある。
 強盗の認知件数は,平成15年に昭和26年以降で最多の7,664件を記録した後,平成16年から減少傾向にあり,平成26年は3,056件(前年比268件(8.1%)減)であった。検挙率は,平成17年から上昇傾向にあり,平成26年は70.5%(同3.2pt上昇)であった。
 詐欺の認知件数は,平成17年に昭和35年以降で最多の8万5,596件を記録した後減少していたが,近年増加傾向にあり,26年は4万1,523件(前年比3,221件(8.4%)増)であった。特に,同年の振り込め詐欺(恐喝)を含む特殊詐欺は,認知件数(1万3,392件),被害総額(約562億円)共に,前年より1割以上増加している(図3(白書1-1-2-7図)参照)。詐欺全体としての検挙率は,平成16年に32.1%と戦後最低を記録した後,平成17年から上昇に転じたが,近年低下傾向にあり,平成26年は41.3%(前年比7.1pt低下)であった。
 窃盗の認知件数は,平成14年に戦後最多の237万7,488件を記録した後減少し続け,平成26年の認知件数は,戦後最少の89万7,259件(前年比8万3,974件(8.6%)減)であった。検挙率は平成14年から上昇に転じ,平成26年の検挙率は,26.2%(前年比0.3pt上昇)であった。

図3 特殊詐欺 認知件数・検挙件数・被害件数の推移


注1 警察庁刑事局の資料による。
  2 「特殊詐欺」は,被害者に電話をかけるなどして対面することなく欺もうし,指定した預貯金口座への
    振り込みその他の方法により,不特定多数の者から現金等をだまし取る犯罪
    (現金等を脅し取る恐喝も含む。)の総称である。
     このうち,「振り込め詐欺」は,オレオレ詐欺,架空請求詐欺,融資保証金詐欺及び還付金等詐欺
    であり,「振り込め詐欺以外の特殊詐欺」は,金融商品等取引名目の詐欺,ギャンブル必勝情報提供
    名目の詐欺,異性との交際あっせん名目の詐欺等である。
  3 @において,「振り込め詐欺以外の特殊詐欺」につき,認知件数は統計の存在する平成22年2月以降の
    数値を,検挙件数は統計の存在する23年1月以降の数値を示した。
  4 Aにおいて,金額については,千円未満切り捨てである。
  5 Aにおいて,「振り込め詐欺以外の特殊詐欺」の被害総額は,統計の存在する平成22年2月以降の
    数値を示した。


(2) 特別法犯
 平成26年における特別法犯の検察庁新規受理人員は,42万881人(前年比6.6%減)であった。このうち,道交違反(道路交通法違反及び自動車の保管場所の確保等に関する法律違反)が33万91人であり,特別法犯全体の78.4%を占める。
 道交違反以外の特別法犯の検察庁新規受理人員は,平成13年から増加した後,平成20年からおおむね減少傾向にあるが,平成26年は9万790人(前年比0.4%増)であった。罪名別では,覚せい剤取締法違反や軽犯罪法違反が多い。
 平成26年のストーカー規制法違反の検察庁新規受理人員は598人で,同年の同法による警告及び禁止命令等の件数は,それぞれ3,171件,149件であった。いずれも平成24年から著しく増加している。
(3) 交通犯罪
 平成26年における交通事故の発生件数は57万3,842件,負傷者数は71万1,374人,死亡者数は4,113人であった。交通事故の発生件数と負傷者数は,いずれも平成17年から10年連続で減少しており,死亡者数は,平成5年から減少傾向にある。
 交通犯罪に関しては,平成26年5月20日から,平成25年11月に成立した自動車運転死傷処罰法が施行されている。平成26年における危険運転致死傷の検挙人員は,無免許危険運転致死傷を除くと,463人(うち致死事件35人)であり,そのうち,飲酒等影響運転支障等による危険運転致死傷が121人(うち致死事件9人)であった。また,無免許危険運転致死傷の検挙人員は,27人(うち致死事件1人)であった。
 平成26年における道交違反の取締件数は,704万8,722件(前年比5.5%減)であった。そのうち,送致事件(非反則事件として送致される事件)の取締件数は,33万744件であった。送致事件の取締件数は,平成11年まで100万件を超えて推移していたが,平成12年からは毎年減少している。特に酒気帯び・酒酔いの取締件数(平成26年は2万7,122件)は,平成7年と比べると,10分の1以下である。
(4) サイバー犯罪
 平成26年における不正アクセス行為(不正アクセス禁止法11条に規定する罪)の認知件数は,3,545件であった。不正アクセス行為の認知件数は,平成22年から2年連続で減少していたが,平成23年を底に増加に転じ,平成26年は平成23年の約4倍であった。

2 犯罪者の処遇
(1) 検察
 平成26年における検察庁新規受理人員(少年事件を含む。)の総数は,123万8,057人であり,前年より9万4,860人(7.1%)減少した。平成26年における検察庁終局処理人員(少年事件を含む。)124万3,019人(前年比9万7,877人(7.3%)減)の内訳は,公判請求9万840人,略式命令請求28万6,699人,起訴猶予70万1,081人,その他の不起訴7万1,140人,家庭裁判所送致9万3,259人であった。公判請求人員は,平成17年から減少し続けていたが,平成26年は前年より354人(0.4%)増加した。
(2) 裁判
 裁判確定人員は,平成12年(98万6,914人)から毎年減少し,平成26年は,33万7,794人(前年比7.5%減)であった。その内訳は,死刑7人,無期懲役28人,有期の懲役・禁錮5万5,681人(うち実刑2万2,475人)であり,執行猶予率は59.6%であった。同年の無罪確定者は116人(裁判確定人員総数の0.03%)であった。裁判確定人員の総数は,平成12年から毎年減少しており,この10年間で半減している。
 裁判員裁判対象事件の第一審における判決人員(平成26年)は1,202人であり,そのうち,無罪が7人,死刑が2人,無期懲役が23人であった。また,有期懲役のうち,88人が単純執行猶予,119人が保護観察付執行猶予であった。
(3) 矯正
 平成26年における入所受刑者の人員は,2万1,866人(前年比3.9%減)であった。入所受刑者の人員は,総数では平成19年から毎年減少しているが,女子の入所受刑者は,平成5年から平成18年まで一貫して増加した後は横ばいで推移しており,平成26年は平成4年(914人)の約2.3倍の2,122人であった。入所受刑者の女子比は,平成12年以降一貫して上昇している(平成26年は9.7%)。
 年齢層別では,男女共に,40歳代の割合が最も高い。罪名別では,男女共に,窃盗,覚せい剤取締法違反の順に高く,特に女子は,窃盗と覚せい剤取締法違反で全体の約8割を占めている。
 平成26年末現在における刑事施設の収容人員は,6万486人(前年末比3.9%減)であった。刑事施設の年末収容人員は,平成18年(昭和31年以降で最多の8万1,255人)をピークとして,その後は減少し続けている。
 収容率(年末収容人員の収容定員に対する比率)は,既決で74.4%(前年末比3.2pt低下)であった。収容率は,平成17年から低下し続けている。収容定員を上回る状態が続いていた女子の収容率(既決)も,平成23年から低下し始め,平成26年では96.1%であった。
(4) 更生保護
 保護観察付執行猶予者の保護観察開始人員は,平成13年から減少傾向にあったが,平成26年は3,348人(前年比2.9%増)であった。平成26年の執行猶予者の保護観察率(執行猶予言渡人員に占める保護観察付執行猶予言渡人員の比率)は,10.0%であった。
 仮釈放者の保護観察開始人員は,平成26年は1万3,925人(前年比4.8%減)であった。出所受刑者の仮釈放率は,平成23年から上昇を続けており,平成26年は56.5%(前年比1.3pt上昇)であった。

3 少年非行
 少年による刑法犯の検挙人員(触法少年の補導人員を含む。)及び刑法犯検挙人員の少年人口比(10歳以上の少年10万人当たりの少年による刑法犯検挙人員)は,いずれも平成16年から毎年低下し続け,平成26年は刑法犯では戦後最少の7万9,499人(前年比12.1%減),人口比は678.4(前年比85.4pt低下)であった。
 刑法犯検挙人員の少年人口比は,平成25年以降,成人の刑法犯検挙人員の成人人口比を下回っているが,一般刑法犯検挙人員の少年人口比(10歳以上の少年10万人当たりの少年による一般刑法犯検挙人員)は,平成16年以降低下傾向にあるものの,平成26年においても,成人の人口比と比べると,約2.7倍と高い(図4(白書3-1-1-1図A)参照)。少年による一般刑法犯の検挙人員を罪名別で見ると,窃盗と遺失物等横領で一般刑法犯の約7割を占めている。

図4 少年による一般刑法犯 検挙人員・人口比の推移


注1 警察庁の統計,警察庁交通局の資料及び総務省統計局の人口資料による。
  2 犯行時の年齢による。ただし,検挙時に20歳以上であった者は,成人として計上している。
  3 触法少年の補導人員を含む。
  4 「少年人口比」は,10歳以上の少年10万人当たりの,「成人人口比」は,成人10万人当たりの,
    それぞれ刑法犯・一般刑法犯検挙人員である。


 少年保護事件の家庭裁判所新規受理人員も,近年減少傾向にあり,平成26年は10万7,479人であった。少年鑑別所の入所者の人員も,平成16年から減少し続けており,平成26年は1万194人であった。少年院入院者の人員も,最近20年間では,平成12年(6,025人)をピークに減少傾向にあり,平成26年は2,872人(前年比10.1%減)であった。
 なお,少年矯正に関しては,平成26年6月に新たな少年院法及び少年鑑別所法が成立し,それぞれ平成27年6月から(なお,いずれも全面施行は同年7月1日。)施行されており,白書でも,その概要等を紹介している。
 保護観察処分少年(家庭裁判所の決定により保護観察に付されている者)の保護観察開始人員は,平成3年から減少傾向にあり,平成26年は1万9,599人と,昭和49年以来40年ぶりに2万人を下回った。平成26年における少年院仮退院者の保護観察開始人員は,3,122人であった。

4 各種犯罪者の動向
(1) 再犯
 ア 再犯者
 一般刑法犯により検挙された者のうち,再犯者(前に道路交通法違反を除く犯罪により検挙されたことがあり,再び検挙された者)の人員は,平成18年(14万9,164人)をピークとして,その後は減少し続けており,平成26年は11万8,381人(平成18年比20.6%減)であった。他方,再犯者率(検挙人員に占める再犯者の人員の比率)は,初犯者の減少の割合に比べ,再犯者の減少の割合が小さいことから,平成9年から一貫して上昇しており,平成26年は47.1%(前年比0.4pt上昇)であった(図5(白書4-1-1-1図)参照)。

図5 一般刑法犯 検挙人員中の再犯者人員・再犯者率の推移


注1 警察庁の統計による。
  2 「再犯者」は,前に道路交通法違反を除く犯罪により検挙されたことがあり,再び検挙された者をいう。
  3 「再犯者率」は,検挙人数に占める再犯者の人員の比率をいう。


 イ 有前科者
 一般刑法犯により検挙された成人の有前科者(道路交通法違反を除く犯罪による前科を有する者)の人員は,平成19年から減少しており(平成26年は5万9,564人(前年比2.8%減)),他方,有前科者率(成人による一般刑法犯検挙人員に占める有前科者の人員の比率)は,平成9年以降27%以上で,平成26年は29.4%であった。前科数別で見ると,前科1犯の者の構成比が最も高いが,前科5犯以上の者も21.4%を占めている。また,一般刑法犯の成人検挙人員のうち,同一罪種(警察庁の統計の区分による。)の前科を有する者の比率は15.3%であった。
 ウ 再入者
 入所受刑者人員のうち,再入者(受刑のため刑事施設に入所するのが2度以上の者)の人員は,平成18年(1万6,528人)をピークに減少傾向にあり,平成26年は1万2,974人(前年比3.2%減)であった。再入者率(入所受刑者人員に占める再入者の人員の比率)は,平成16年から上昇し続けており,平成26年は59.3%であった。
 エ 累積再入率

図6 出所受刑者の出所事由別累積再入率


注1 法務省大臣官房司法法制部の資料による。
  2 前刑出所後の犯罪により再出所した者で,かつ,前刑出所事由が満期釈放又は
    仮釈放の者を計上している。
  3 「累積再入率」は,@では平成22年の出所受刑者の人員に占める同年から26年までの
    各年の年末までに再入所した者の累計人員の比率を,Aでは17年の出所受刑者の人員に占める
    同年から26年までの各年の年末までに再入所した者の累積人員の比率をいう。


 平成17年の出所受刑者(仮釈放又は満期釈放により刑事施設を出所した者)について見ると,10年以内の累積再入率(出所年を含む各年の年末までに再入所した者の累積人員の比率)は,満期釈放者では59.8%,仮釈放者では38.2%であるが,そのうち,5年以内に再入所した者は,10年以内に再入所した者の約9割,約8割をそれぞれ占めている。また,満期釈放者の場合,5年以内及び10年以内に再入所した者の過半数は,2年以内に再入所している。平成22年の出所受刑者について,5年以内の累積再入率は,総数で38.6%であるが,そのほぼ半数である19.2%が,出所後2年以内に再入所している。(図6(白書4-1-3-4図)参照)。
 平成16年から平成25年の各年の出所受刑者について,出所年を含む2年間における累積再入率(2年以内累積再入率)を見ると,総数と満期釈放者では,平成18年以降わずかながら低下傾向にあるのに対し,仮釈放者では,平成23年以降わずかながら上昇している。
 年齢層別では,29歳以下の年齢層の2年以内累積再入率が一貫して最も低く,年齢層が上がるにつれて高くなる傾向にある。平成25年出所受刑者では,29歳以下の若年者層の2年以内累積再入率が11.5%(前年比1.0pt低下)であったのに対し,65歳以上の高齢者層は24.9%(前年比2.0pt上昇)であった。
(2) 暴力団犯罪者
 暴力団構成員等(暴力団構成員及び準構成員その他の周辺者)の検挙人員(一般刑法犯及び交通法令違反を除く特別法犯に限る。)は,平成15年まで3万人台で推移していたが,平成16年からは3万人を下回り,平成26年は2万2,495人(前年比1.6%減)であった。罪名別では,覚せい剤取締法違反が最も多く,次いで,傷害,詐欺,窃盗,暴行の順であった。平成26年における全検挙人員に占める暴力団構成員等の比率は,全体で7.1%であり,罪名別に見ると,一般刑法犯では,賭博,恐喝,逮捕監禁で高く,特別法犯では,自転車競技法違反,覚せい剤取締法違反,職業安定法違反で高い。
(3) 薬物犯罪者
 覚せい剤取締法違反(覚せい剤に係る麻薬特例法違反を含む。)の検挙人員は,平成13年以降減少傾向にあるものの,毎年1万人を超える状況が続いており,平成26年は1万1,148人であった。平成26年における覚せい剤取締法違反の検挙人員のうち,同一罪名再犯者(前に覚せい剤取締法違反で検挙され,再度,同法違反で検挙された者)の比率は,65.0%(前年比1.2pt上昇)であった。
 いわゆる危険ドラッグ(規制薬物(覚せい剤,大麻,麻薬,向精神薬,あへん及びけしがら)又は指定薬物(医薬品医療機器等法2条15項に規定する指定薬物)に化学構造を似せて作られ,これらと同様の薬理作用を有する物品をいい,規制薬物及び指定薬物を含有しない物品であることを標榜しながら規制薬物又は指定薬物を含有する物品を含む。)に係る犯罪の検挙人員は平成24年から急増し,平成26年は840人(前年比664人増)であった。主な適用法令は,医薬品医療機器等法,麻薬取締法及び交通関係法令(危険運転致傷,過失運転致死傷,道路交通法)である。
(4) 高齢犯罪者
 平成26年における高齢者(65歳以上の者)による一般刑法犯の検挙人員は,4万7,252人(前年比2.2%増)であり,平成7年の約4倍であった。平成26年の高齢者の一般刑法犯検挙人員の人口比(高齢者の人口10万人当たりの高齢者による一般刑法犯検挙人員)は143.2と,平成7年の約2.3倍であるが,他の年齢層の検挙人員の人口比よりは相対的に低く,20歳代(320.1)と比べると半分以下である。
 高齢者の一般刑法犯検挙人員は,窃盗の増加が著しく,平成26年は3万4,518人と,平成7年の約4.4倍であった。また,粗暴犯である傷害と暴行も著しく増加している。特に女子の高齢者では,約9割が窃盗であり,しかも万引きによる者の割合が約8割と際立って高い。
 高齢者の入所受刑者の人員は,最近20年間,ほぼ一貫して増加しており,平成26年(2,283人)は平成7年と比べて約4.6倍に,女子では約16倍に激増している。入所受刑者総数に占める高齢者の比率も,ほぼ一貫して上昇しており,平成26年は10.4%であった。なお,平成26年の入所受刑者のうち高齢者が占める割合は,女子(16.4%)の方が男子(9.8%)よりも高く,高齢化の傾向が女子入所受刑者において,より顕著にうかがえる。
 また高齢者は,入所受刑者全体(59.3%(本稿4(1)ウ参照))と比べて,再入者率が高い(平成26年は71.7%)。他方,高齢者の仮釈放率は,出所受刑者全体(56.5%(本稿2(4)参照))と比べて常に低く,平成26年は40.1%であった。
(5) 精神障害のある犯罪者等
 平成26年における精神障害者等(精神障害者及び精神障害の疑いのある者)の一般刑法犯検挙人員は,3,834人(精神障害者2,158人,精神障害の疑いのある者1,676人)であり,罪名別では窃盗が最も多く,精神障害者等の約4割を占めている。また,同年における一般刑法犯検挙人員の総数に占める精神障害者等の比率は,1.5%であり,罪名別では,放火(17.4%)及び殺人(12.8%)において高かった。
 平成26年における心神喪失者等医療観察法の審判の検察官申立人員は,331人であり,対象行為別では,傷害が最も多く,次いで,殺人,放火の順であった。また,同年における地方裁判所の審判の終局処理人員は,355人であり,そのうち入院決定は262人であった。

5 犯罪被害者
 平成26年における人が被害者となった一般刑法犯の認知件数及び男女別の被害発生率(人口10万人当たりの認知件数)は,いずれも平成17年と比べて約2分の1と,大きく減少・低下している。男子の被害発生率は,女子の2倍以上である。
 平成26年の生命・身体に被害をもたらした一般刑法犯の死傷者総数は,3万1,979人であり,平成17年と比べると,約3割減少している。平成26年の財産犯(強盗,窃盗,詐欺,恐喝,横領及び遺失物等横領)の被害総額は,約1,820億円であり,罪名別では,詐欺によるもの(構成比46.5%)が最も多く,次いで窃盗(同44.7%)であり,平成に入って初めて,詐欺の被害総額が窃盗の被害総額を上回った。
 平成26年における児童虐待に係る事件の検挙件数は698件(前年比231件増),検挙人員は719人(同237人増)であり,罪名別では,検挙件数・検挙人員共に,傷害と暴行が大幅に増加した。同年における児童虐待に係る事件の検挙人員について,被害者との関係における加害者の立場を見ると,全体では,父親等によるものの割合(75.9%)が高いが,殺人及び保護責任者遺棄では,母親等によるものの割合がそれぞれ78.8%,72.7%と高かった。また,実親による犯行が総数の約6割を占めている。
 最近5年間の通常第一審における被害者参加制度の実施状況の推移については,表1(白書5-2-1-3表)のとおりである。

表1 通常第一審における被害者参加制度の実施状況の推移


注1 司法統計年報及び最高裁判所事務総局の資料による。
  2 「被害者参加」は,通常第一審において被害者参加が許可された被害者等の数(延べ人数)である。
    (  )内は,そのうち,裁判員裁判対象事件におけるものである。


6 (特集)性犯罪者の実態と再犯防止
(1) 特集概要
 本特集では,まず,各種統計資料に基づき,強姦や強制わいせつを中心とした性犯罪の動向等を分析するとともに,矯正・更生保護の各段階における性犯罪者の再犯防止に向けた各種取組の実情のほか,諸外国における地域社会での取組についても紹介している。さらに,法務総合研究所による特別調査の結果に基づき,性犯罪者の実態や再犯状況等を分析し,性犯罪者の多様な特性や問題性を明らかにするとともに,性犯罪の再犯と関連する要因について検討した上で,問題性に応じた働き掛けや処遇プログラムの実施者の育成の重要性等を指摘するなど,性犯罪者の処遇の充実に向けた展望を試みている。
 これらのうち,特別調査については,別稿に委ねることとし,本稿では,犯罪対策閣僚会議が決定した「再犯防止に向けた総合対策」(平成24年7月)の中で,「特に,小児を対象とした性犯罪者,性犯罪又は性犯罪と密接な関連を有する他の犯罪を累行する者等,性犯罪リスクの高い刑務所出所者等に対する再犯防止対策の在り方」が問題とされていることを念頭に,性犯罪の動向及び施策の一部を紹介する。
(2) 動向
 ア 認知件数・検挙件数・検挙人員等
 強姦の認知件数は,昭和39年に戦後最多の6,857件を記録した後,減少傾向にあったが,平成9年から増加傾向を示し,平成15年には2,472件となった。その後は減少傾向にあり,平成26年は1,250件(前年比159件(11.3%)減)であった。また,同年の検挙件数は1,100件(前年比63件(5.4%)減),検挙人員は919人(同18人(1.9%)減)であった。検挙率は,昭和21年以降一貫して80%以上であったが,平成10年以降低下し続け,平成14年に62.3%と戦後最低を記録したものの,その後上昇傾向にあり,平成26年は88.0%(前年比5.5pt上昇)であった。検挙率は,一般刑法犯全体(30.6%(図1参照))よりも一貫して高い。
 強制わいせつの認知件数は,公然わいせつとは分けて統計を取り始めた昭和41年以降最多となる,平成15年に1万29件を記録した後,平成21年まで減少し続け,平成22年から増加傾向にあったものの,平成26年は7,400件(前年比254件(3.3%)減)であった。また,同年の検挙件数は4,300件(前年比333件(8.4%)増),検挙人員は2,602人(同115人(4.6%)増)であり,いずれも,昭和41年以降で最多であった。検挙率は,昭和41年以降70%以上であったものの,平成11年から急低下し,平成14年に35.5%と昭和41年以降で最低を記録したが,その後上昇傾向にあり,平成26年は58.1%(前年比6.3pt上昇)であった。強制わいせつに関しても,検挙率は,一貫して一般刑法犯全体(図1参照)よりも高い。
 わいせつ目的略取誘拐の認知件数は,平成20年以降横ばいであり,26年は73件(前年比1件減)であった。検挙率は一貫して80%以上である。平成26年のわいせつ目的略取誘拐の認知件数のうち,13歳未満の子供が被害者となった事件の認知件数は31件(前年比7件増)であった。
 平成26年の強盗強姦の認知件数は44件(前年比26件減),検挙件数は35件(同24件減)であり,いずれも,昭和23年以降で最少であった。また,平成26年の検挙人員は27人(前年比4人減)であった。検挙率は,平成15年には昭和23年以降最低の49.3%を記録したが,その後上昇し,平成26年は79.5%(前年比4.7pt低下)であった。
 電車内等におけるいわゆる痴漢事犯は,各都道府県の迷惑防止条例違反の痴漢事犯,又は強制わいせつ事犯として,認知・検挙されている。各都道府県は,「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」等の名称で,いわゆる迷惑防止条例を制定し,同条例において,「人を著しく羞恥させ,又は人に不安を覚えさせるような行為であり,公共の場所又は公共の乗物において,衣服等の上から,又は直接人の身体に触れる」などの行為を痴漢行為として禁止し,罰則を設けている。
 このような迷惑防止条例違反の痴漢事犯及び電車内における強制わいせつ事犯のいずれも,平成25年から減少しており,平成26年はそれぞれ3,439件(前年比144件(4.0%)減),283件(前年比20件(6.6%)減)であった。
 迷惑防止条例違反のうち,盗撮事犯の平成26年の検挙件数は,3,265件であった。
 児童福祉法違反(「児童に淫行させる行為」)の送致人員は,平成17年以降,減少傾向にあり,平成26年は,319件(前年比13件(3.9%)減)であった。
 強姦,強制わいせつの検挙人員のうち,20〜29歳及び30〜39歳の者の割合が,この30年間一貫して約5割から6割を占めている。強姦,強制わいせつの検挙人員のうち,少年の割合は低下傾向にあり,平成26年は,昭和60年と比べると,強姦が2分の1以下,強制わいせつが約3分の1になった。近年の検挙人員における高年齢化(図2参照)は,強姦,強制わいせつにおいても認められ,平成26年の高齢者の検挙人員は,昭和61年と比べて,強姦では約7.7倍(3人から23人),強制わいせつでは約19.5倍(11人から215人)に増加した。(図7(白書6-2-1-7図)参照)。
 平成26年における強姦,強制わいせつの検挙人員について,有職者(自営業者・家族従業者,被雇用者・勤め人をいう。)の占める割合は,一般刑法犯総数では40.8%であるが,強姦は69.2%,強制わいせつは67.6%であった。強姦,強制わいせつ共に,最近20年間を見ると,有職者の占める割合は,一貫して6割を超えている。

図7 強姦・強制わいせつ 検挙人員の年齢層別構成比の推移


注1 警察庁の統計による。
  2 犯行時の年齢による。
  3 昭和60年は,「60〜64歳」と「65〜69歳」を区別した統計データがないため,
    「50〜69歳」の人員を「50〜64歳」の人員として,「70歳以上」の人員を「65歳以上」の人員として,
    それぞれ計上している。


 イ 性犯罪被害者
 強姦・強制わいせつの認知事件から見ると,強姦の被害者数は,平成7年の1,500人から,平成26年は1,250人に減少した。そのうち,13歳未満の被害者数は,平成26年は77人と,平成7年(60人)に比べて増加した。
 平成26年の強制わいせつの被害者数は,7,400人(うち男子214人)であり,平成7年(3,644人うち男子115人)からほぼ倍増している。年齢層別に見ると,男子を被害者とする強制わいせつでは,13歳未満の者の割合が一貫して約半数を占めている。女子を被害者とする強制わいせつでは,13歳未満の者の割合は,平成26年は平成7年に比べて2分の1以下となったが,被害者数では,平成26年は968人と,平成7年に比べ190人減(16.4%減)であった。
 強姦,強制わいせつの検挙件数について,被害者と被疑者の関係を見ると,強姦,強制わいせつ共に,被害者が「面識あり」及び「親族」の割合が上昇傾向にある。平成26年の強姦における被害者が「面識あり」の場合は464人と,7年(280人)に比べて約1.7倍に,「親族」の場合は60人と,平成7年(7人)に比べて約8.6倍にそれぞれ増加した。また,平成26年の強制わいせつにおける被害者が「面識あり」の場合は1,033人と,平成7年(223人)に比べて約4.6倍に,「親族」の場合は81人と,平成7年(6人)に比べて13.5倍にそれぞれ増加した。
 平成26年の強姦検挙事件における被害者が「親族」のうち,子が被害者となったものは39人(実子9人,養子等30人)であった。また,同年の強制わいせつにおける被害者が「親族」のうち,子が被害者となったものは50人(実子10人,養子等40人)であった。
 ウ 裁判
 平成26年の通常第一審における強姦の有罪人員(懲役)は,361人で,平成7年と比べて32.4%減少している。他方平成26年の通常第一審における強制わいせつの有罪人員(懲役)は,971人で,平成7年と比べて約2.4倍に増加している。
 平成26年の通常第一審における執行猶予者について保護観察が付される率について見ると,強姦等(刑法第2編第22章の罪)については,終局処理人員総数(10.0%)と比べて高い(21.2%。白書2-3-2-1表参照)。
 強姦・強制わいせつ事件について,通常第一審において被害者参加制度を利用した被害者等の数は増加傾向にあり,平成22年と比べると,平成26年は強姦で約2.1倍,強制わいせつで約2.8倍であった。同年における遮へい及び付添いの措置が実施されたそれぞれの被害者参加人総数(遮へい措置195人,付添い措置93人(表1参照))のうち,強姦(同58人,28人)と強制わいせつ(同68人,36人)を合わせた被害者参加人の人員の占める割合は,いずれも6割を超えている。
 エ 性犯罪者の再犯
  (ア) 再犯者
 強姦により検挙された者のうち,再犯者(本稿4(1)ア参照)の人員は,平成15年から減少傾向にあり,平成24年から2年連続で増加したものの,平成26年は474人(前年比38人(7.4%)減)であった。また再犯者率(強姦の検挙人員に占める再犯者の人員の比率)は51.6%(前年比3.1pt低下)であり,一般刑法犯全体の再犯者率(47.1%(図5参照))と比べると4.4pt高い。
 強制わいせつの再犯者の人員は増加傾向にあり,平成26年は1,191人(前年比37人(3.2%)増)であった。同年の強制わいせつの再犯者率は45.8%(前年比0.6pt低下)であり,平成7年(36.5%)と比べると9.3pt上昇した。また,平成26年の一般刑法犯全体の再犯者率(図5参照)と比べると1.4pt低い。
  (イ) 有前科者
 強姦の有前科者の人員は,平成15年から減少傾向にあり,平成26年は260人(前年比12人(4.4%)減)であった。同年の強姦の有前科者率(成人による強姦の検挙人員に占める有前科者の人員の比率)は32.6%(前年比0.8pt低下)であり,一般刑法犯全体(29.4%(本稿4(1)イ参照))と比べると3.2pt高い。また,同年の強姦の同一罪種(警察庁の統計の区分による。)の前科を有する者の人員の比率(同一罪種有前科者率)は,6.8%(前年比0.1pt低下)であり,一般刑法犯全体(15.3%(本稿4(1)イ参照))よりも低い。
 強制わいせつの有前科者の人員は増加傾向にあり,平成26年は718人(前年比25人(3.6%)増)で,平成7年(286人)と比べると約2.5倍であった。平成26年の強制わいせつの有前科者率(成人による強制わいせつの検挙人員に占める有前科者の人員の比率をいう。)は,31.3%(前年比0.8pt低下)であり,一般刑法犯全体(29.4%)と比べると1.9pt高い。また,同年の強制わいせつの同一罪種有前科者率は,8.1%(前年比1.3pt低下)であり,一般刑法犯全体(15.3%)よりも低い。
  (ウ) 再入者
 強姦の再入者人員は,平成19年以降減少傾向にあり,26年の再入者率は14.9%(前年比4.8pt低下)であった。強制わいせつの再入者人員は,18年以降,100人を超えて,おおむね横ばいで推移しており,26年の再入者率は29.8%(前年比1.4pt低下)であった。強姦,強制わいせつ共に,入所受刑者総数の再入者率(59.3%。本稿4(1)ウ参照)と比べると顕著に低い。
 強姦について,同一罪名再入者(再入罪名と前刑罪名が同一である者)の割合は27.7%,強制わいせつが前刑罪名である者の割合は7.3%である。強制わいせつについて,同一罪名再入者の割合は32.3%,強姦が前刑罪名である者の割合は13.2%である。
 同一罪名再入者の割合について見ると,強姦,強制わいせつは,窃盗(73.8%),覚せい剤取締法違反(72.8%)ほど高くないものの,殺人(8.6%),強盗(13.5%)より高い。
  (エ) 累積再入率
 平成17年及び平成22年の強姦,強制わいせつの出所受刑者について,出所年を含む5年以内又は10年以内における累積再入率を見ると,強姦総数(5年19.4%,10年27.8%),強制わいせつ総数(5年28.6%,10年35.7%)共に,出所受刑者総数における5年以内又は10年以内における累積再入率(5年38.6%,10年48.0%。図6参照)に比して低い。
(3) 再犯防止に向けた各種施策
 ア 刑事施設
 刑事施設では,平成18年度から,性犯罪再犯防止指導を特別改善指導の一つとして実施している。これは,性犯罪につながる認知の偏り,自己統制力の不足等の自己の問題性を認識させ,その改善を図るとともに,再犯をしないための具体的な方法を習得させることを目的とするものである。同指導は,新たに刑が確定した全受刑者の中から,まず,強姦,強制わいせつ等の事件名や事件内容(前歴を含む。)から,わいせつ目的がうかがわれるなど「性犯罪受刑者」に該当する者について,@常習性・反復性が認められる者又はA性犯罪につながる問題性の大きい者であるか否かという観点から,性犯罪者調査が必要な者を選ぶ。さらに,これらの者に対する性犯罪者調査において,再犯リスク,性犯罪につながる問題性及び処遇適合性の観点から,性犯罪再犯防止指導を受講すべきと判断された者に対して,実施されることになる。指導は,オリエンテーション,本科プログラム及びメンテナンス・プログラムの順に行われ,本科プログラムの指導科目は,「自己統制」「認知のゆがみと変容方法」「対人関係と親密性」「感情統制」及び「共感と被害者理解」で構成されており,指導対象者は,その再犯リスク等に応じて,高密度,中密度,低密度のいずれかに指定され,区分に応じたプログラムの科目を受講する(図8(白書6-3-1-1図)参照)。

図8 刑事施設における性犯罪再犯防止指導の概要



 イ 保護観察所
 更生保護においては,性犯罪の保護観察対象者に対し,その問題性等に焦点を当てた効果的な処遇を実施し,保護観察の実効性を高めるため,平成2年度から類型別処遇の一環として「性犯罪対象者」の類型を設定した処遇を行っているほか,平成18年度からは,性犯罪者処遇プログラムを実施している。類型別処遇の実施に当たっては,保護観察対象者の問題性等を個別に見極め,女性蔑視観による攻撃的犯罪等の5つのタイプに分けて,きめ細かい保護観察を実施している。
 また,性犯罪者処遇プログラムは,自己の性的欲求を満たすことを目的とする犯罪に当たる行為を反復する傾向を有する保護観察対象者に対し,心理学等の専門的知識に基づき,性犯罪に結びつくおそれのある認知の偏り,自己統制力の不足等の自己の問題性等について理解させるとともに,再び犯罪をしないようにするための具体的な方法を習得させ,その傾向を改善することを目的として,特別遵守事項の対象となる「コア・プログラム」等の4つのプログラムで構成されている(図9(白書6-3-2-2図)参照)。

図9 保護観察における性犯罪者処遇プログラムの概要



おわりに
 以上,平成27年版犯罪白書の概要を紹介したが,本稿で紹介できたのは,ルーティン部分を含めて本白書のごく一部の内容にすぎない。
 なお,本稿では言及を省略した特別調査からは,性犯罪者のうち,一部は,一定の態様の性犯罪を繰り返しているものの,全ての性犯罪者が性犯罪のみを繰り返すわけではないことがうかがえた。そのため,上記したような性犯罪者特有の問題性に焦点をあてた処遇のみならず,白書のルーティン中に記述されている,犯罪一般を繰り返させないための取組み双方が重要であることを最後に付記したい。
 平成27年版犯罪白書が,我が国の犯罪情勢の現状及びその問題点を明らかにし,その解決のための施策の検討の一助となれば幸いである。

(法務総合研究所室長研究官)


参考文献
1 自動車運転過失致死傷,業務上過失致死傷及び重過失致死傷をいい,平成26年は,自動車運転死傷処罰法4条,5条,6条3項及び4項に規定する罪を含む。なお,警察庁の統計による場合,自動車運転過失致死傷,業務上過失致死傷及び重過失致死傷については道路上の交通事故に係るものに限り,道路上の交通事故に係る過失致死傷を含む。また,検察統計年報による場合,自動車又は原動機付自転車による交通犯罪以外の業務上過失致死傷及び重過失致死傷を除く。
2 電車内以外で行われたものを含む。
3 各都道府県警察において,「下着等の撮影」又は「通常衣服を着けない場所における盗撮」として判断したもの
4 捜査の結果,犯罪が成立しないこと又は訴訟条件を欠くことが確認された事件を除く。
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