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再犯・再非行データの意義と可能性
──平成28年版犯罪白書特集 「再犯・再非行」を読んで
岡邊  健
1 はじめに
 平成28年版犯罪白書(以下本稿では「28年版白書」とする。)の「はしがき」では,犯罪対策閣僚会議が平成24年に決定した「再犯防止に向けた総合対策」のなかで,「対象者の特性に応じた指導及び支援の強化等」を重点施策として掲げた経緯にふれながら,「未だ道半ば」との現状認識が示されている。このような厳しい現状認識の一例として示されているのは,刑務所満期出所者の5年以内再入率が約5割であり,このうち過半数の者が2年以内に再入しているという状況である。
 同決定の見直しが平成29年にも予定されているなか,28年版白書が「再犯・再非行〜再犯の現状と対策のいま〜」を特集テーマとして刊行されたことの意義は大きいと思われる。現状の的確な把握は,対応策を立案・検討する上で必要不可欠な作業であり,既存のデータや先行研究の知見の整理は,その現状把握のための第一歩であろう。
 28年版白書を一読すると,同特集だけでなく,いわゆるルーティン部分においてもいくつか気づかされることがある注1。しかし紙幅の都合上,本稿では第5編の特集「再犯・再非行〜再犯の現状と対策のいま〜」(以下本稿では「特集」とする。)の内容の一部をやや詳しく取り上げながら,再犯・再非行データを活用することの意義と可能性について考えてみたい。

2 再犯率と再犯者率
 特集においては,コラム(210頁)のなかで,再犯とはそもそも何なのかについて解説されている。再犯率と再犯者率の違い,再犯率を正確に理解する上でのポイントについてまとめられており,一般読者にとって有用なガイドとなっている。
 再犯率と再犯者率の違いについての解説のなかでは,再犯率は「犯罪により検挙等された者が,その後の一定期間内に再び犯罪を行うことがどの程度あるのかを見る指標」と,再犯者率は「検挙等された者の中に,過去にも検挙等された者がどの程度いるのかを見る指標」と説明されている。
 新聞記事においてすら,再犯率と再犯者率の混同は散見されるのだから(たとえば,朝日新聞には少々申し訳ないが,同社の記事データベースで本稿執筆時点直近の例を探すと,本年9月5日付朝刊の宮崎県版に,覚醒剤取締法違反事件で逮捕された人の「再犯率」が77.3% であり,前年から13ポイントもはね上がったとする「誤報」が載っていた。),ましてや一般市民でこれらの違いを正確に理解している人は,多くはないであろう。その意味で,この解説コラムの掲載は高く評価されるべきであり,コラム掲載を機に,両概念の違いに関する正しい理解が広がることを願っている。
 ただ,このコラムの末尾において,再犯率と再犯者率のいずれもが「再犯の実態を把握する上で重要な概念」であるとされていることには,留意が必要であろう。再犯率と再犯者率とでは,圧倒的に前者の持つ情報量の方が多いことは強調しておきたい。また,後者すなわち再犯者率が,再犯の実態とは無関係に動きうる値であることにも,細心の注意が払われるべきだと思われる。
 筆者は別の機会にこのことを指摘したことがある(『刑政』平成27年6月号)が,ここでその要点だけを述べておきたい。いま仮に,ある時点(たとえばある年の年初)において,これまでに一度も検挙されたことのない者(A群)がa人,一度でも検挙されたことのある者(B群)がb人いるとする。その時点を起点とする一定期間(たとえば当年末までの1年間)に,A群の者が検挙される確率をp(ただし0≦p≦1),B群の者が再検挙される確率をq(ただし0≦q≦1)とすると,その期間(1年間)の検挙人員は,(a×p)+(b×q)となる。この1年間の再犯者率とは,その検挙人員中に再犯者(b×q)が占める割合のことであるが,であるならば,確率qを固定した場合,確率pの数値が下がると再犯者率は上昇するのである。つまり,B群の動向がまったく変わらない場合においても,A群から検挙される確率pが下がれば,再犯者率は高くなるのだ。
 言うまでもないことであるが,再犯者率の以上のような性質は,再非行少年率(少年の刑法犯検挙人員に占める再非行少年の人員の比率),有前科者率(起訴人員に占める有前科者の人員の比率),再入者率(入所受刑者人員に占める再入者の人員の比率)についてもあてはまる。たとえば,ある年の年初時点で前科のあった者がその年1年間で再び有罪判決を受ける確率を固定した場合,その年初時点で前科のなかった者が当該1年間に初めての有罪判決を受ける確率が下がると,当該年の有前科者率は上昇する。同様に,ある年の年初時点で施設入所歴のある者が当該1年間で再入する確率を固定した場合,その年初時点で入所歴のなかった者が当該1年間に施設入所する確率が下がると,当該年の再入者率は上昇するのである。

3 出所受刑者の再入所状況
 特集のなかでとくに注目に値すると思われるのは,第1章第3節第2項「出所受刑者の再入所状況」と同3項「出所受刑者の再入率の推移」及び,第1章第5節第3項「少年院出院者の再入院等の状況」である。これまでに公表されたことのないデータも含めて,詳細な再入所・再入院データの分析がなされている。
 このうち第1章第3節第2項「出所受刑者の再入所状況」については,まず5-1-3-7図(220-221頁)において,平成8年出所受刑者の20年以内再入率が示されていることが目を引く。これによれば,前刑出所事由が満期釈放である場合も仮釈放である場合も共通して,出所年を含む5年以内に再入率は急激に上昇し,その後再入率のカーブの傾きは緩やかになって,10年を超えるとほぼ横ばい,すなわち新たな再入者がほとんどいない状況になっている。出所からおよそ5年間の動向が,再犯にとっては決定的に重要であることがわかる。
 なお,5-1-3-7図では,出所からの経過年ごとに新たに再入に至る者の割合が,カーブの傾きで表現され,傾きが急なほど当該年において新たに再入に至る者が多いことが示されている。これを別の表現にしたのが,図Aである。この図は,筆者の手元に正確な数値がある27年版白書付録CD-ROM 所収のデータから作成したものであり,平成17年に出所した者全体を100% としたとき,出所からの経過年ごとに新たに再入に至る者がどの程度出現するかをみたものである。つまり前述のカーブの傾きを棒の高さで表現したグラフである。この図をみると,とりわけ出所から2年目に新たに再入に至るものが突出して多いことが一目瞭然であろう。
 同様に,5-1-3-13図(225頁)に示されている罪名別の5年以内再入率をもとに,出所からの経過年ごとに新たに再入に至る者がどの程度出現するかを罪名別にみたのが,図Bである。比較的該当者の多い窃盗,覚せい剤取締法違反,傷害・暴行,詐欺について,満期釈放のみを示した。ここから,窃盗と覚せい剤取締法違反とでは,5年以内再入率の数値はほぼ等しいにも関わらず,時間の経過に伴う再入者の出現パターンは大きく異なることがわかる。また,窃盗と詐欺の再入者の出現パターンは類似していることにも気づかされる。このようにグラフ表現を変えることで,異なる角度からデータの吟味を行うことも,出所者への有効な働きかけを考える上で有益かもしれない。


図A 出所からの経過年別の再入者出現率(平成17年出所)



図B 出所からの経過年別の再入者出現率(罪名別) (平成23年出所,満期釈放)



 5-1-3-8図(221頁)及び5-1-3-9図(222頁)では,出所受刑者の再入率が,「初入者・再入者別,出所事由別」「入所度数別」に示されている。本文では10年以内再入率について,初入者における満期釈放と仮釈放の差が16.6ポイントであるのに対して,再入者における両者の差は8.5ポイントであり,初入者においてその差が顕著に大きいと指摘されている。これは,「初入/再入の別」,「満期釈放/仮釈放の別」の両方の要素が再入率を左右しており,かつ両者の交互作用が存在するということを示唆する結果であろう。

4 出所受刑者の再入率の推移
 本稿冒頭でも述べた平成24年の犯罪対策閣僚会議「再犯防止に向けた総合対策」のなかでは,刑務所出所者及び少年院出院者の出所・出院年を含む2年間における刑務所等に再入所等する者の割合(2年以内再入率)を,過去5年(平成18〜22年の出所・出院者)の平均値(刑務所は20%,少年院は11%,以下では「基準再入率」とする。)を基準として,平成33年までに20% 以上減少させるという目標が設定されている。換言すれば平成33年までに,刑務所出所者の2年以内再入率を16.0% 以下に,少年院出院者の2年以内再入率を8.8% 以下にすることが,目指されているということである。この点からいえば,再入率が近年どのような推移をみせているのかは,実務的にもっとも重大な関心事であるといえよう。特集の第1章第3節第3項「出所受刑者の再入率の推移」は,その問いに答えるパートである(少年院出院者の再入状況については,第1章第5節第3項で触れられている。)。
 5-1-3-15図@(228頁)では,2年以内再入率の過去10年の推移が出所事由別に示されている。最新の平成26年出所受刑者の再入率は,25年出所受刑者よりやや上昇しているが,過去10年の推移全体をみれば,26年出所受刑者の再入率は17年出所者のそれに比べて,総数で3.2ポイント,満期釈放者だけをみれば5.3ポイント低下している。同様に,過去10年の5年以内再入率(5-1-3-15図A(228頁)),過去10年の10年以内再入率(5-1-3-15図B(228頁))も低下傾向にあるといえる。前述の数値目標に即して考えると,2年以内再入率は最新の数字では18.5%(平成26年出所者)であり,基準再入率に比べて低い水準に抑えられていると評価できると考えられる。
 5-1-3-16図(229頁)では,男女別,入所度数別,年齢層別に2年以内再入率の推移が示されている。また,5-1-3-17図(230頁)では,罪名別に同じく2年以内再入率の推移が示されている。これらの図で特に注目されるのは,再入率が低下傾向にあるのは男性のみであること,65歳以上の高齢者層での再入率は他の年齢層に比べて高水準であるものの,近年この層の再入率の低下の度合いが他の年齢層よりも大きくなっていること,覚せい剤取締法違反の再入率の低下傾向が他の罪名に比べて相対的に小さいことである。第3章第3項「再入率の経年での推移」でも記されているように,女性,高齢者層,覚せい剤取締法違反の者等が,再犯の抑制に向けてとりわけ重要な対象者であることを示唆するデータであろう。
 やや気になったのは,5-1-3-16図の注3で,「前刑出所時の年齢」が「再入所時の年齢及び前刑出所年から算出した推計値」であるとされている点である。どのような事情があるのかは推測の域を出ないが,おそらくある人物が再入した場合にあっても,当該人物の前刑出所時の日付情報と再入所時の記録とが,容易には紐づけられないシステムになっているのであろう。もしこの推測が妥当だとすれば,第2章第1節第2項(3)「再犯の実態や対策の効果等の調査・分析等」で言及されている刑事情報連携データベースシステム(検察・矯正施設・保護観察所等の持つ情報を共有するシステム)の運用が,この種のテクニカルな課題を乗り越える方向で活用されることを期待したい。
 第1章第3節第3項「出所受刑者の再入率の推移」の全体を読んで,もうひとつ指摘したいことは,より長期間にわたって再入率の推移を示してもよいのではないかということである。試みに矯正統計年報に基づいて,平成元年以降の出所受刑者の再入状況をグラフ化してみよう。それぞれ出所事由別に,図Cは2年以内再入率を,図Dは5年以内再入率を示している。図Cをみると,過去10年間の2年以内再入率は,それ以前のおよそ10年間の値と比べると,相対的に低い水準にあることがわかる。図Dの5年以内再入率の推移についてもほぼ同様である。また,満期釈放,仮釈放ともに,平成11年出所者が平成以降の5年以内再入率のピークを形成している。平成10年代前半が刑事施設の収容者数と収容率の急増した時期であったことに何らかの関連があるものと考えられる。

図C 出所受刑者の出所事由別2年以内再入率の推移



図D 出所受刑者の出所事由別5年以内再入率の推移



5 少年院出院者の再入院等の状況
 特集の第1章第5節第3項「少年院出院者の再入院等の状況」では,少年院出院者の再入院又は刑事施設への入所の状況に関して検討されている。このパートでもっとも注目されるのは,「再入院・刑事施設入所率」という概念である。この概念が有効である理由としては,「出院後の期間の経過に伴い,成年年齢に達する者が多くなり,そのような者が再犯(再非行)に及んだとしても,保護処分ではなく,刑事処分の対象となるため,再入院には至らないことがある」旨の説明がなされている。近年の犯罪白書においては,少年院出院者の再入院等の状況は,再入院状況(少年院への再入のみをカウント)と最終出院後の刑事施設入所状況の2つが別々の表で示されており,少年院退院後一定の追跡期間中に,少年院への再入院または刑事施設への入所の「いずれかまたは両方」を経験する者の割合は,明確にはわかりづらかった。実は,この数値はこれまでの犯罪白書に掲載された情報からも計算することはできたのだが,28年版白書ではそれが明示されたのである。今後もこの方針を継続するのが望ましいと筆者は考える。
 5-1-5-5図(244頁)には,平成23年出院者の再入院率と「再入院・刑事施設入所率」の出院からの時間経過にともなう変化が示されている。再入院率は2年以内では11.1%,5年以内では15.9% である。「再入院・刑事施設入所率」は2年以内で11.8%,5年以内で21.7% である。出院年の翌年までは両者の値は大きく変わらないが,出院年の2年後にあたる年以降はしだいに再入院率が伸びなくなり,代わりに「再入院・刑事施設入所率」が上昇をみせている。
 5-1-5-6図(245頁)には,再入院率と「再入院・刑事施設入所率」の近年の推移が,2年以内,5年以内のそれぞれについて示されている。これを受けて276頁では,出所受刑者の2年以内再入率(18.5%)に比べて少年院出院者の「再入院・刑事施設入所率」(11.4%)が「相対的に低い水準にある」と評されているが,これについては「単純な比較はできない」との断りが付されているとおり,解釈に留意が必要であろう。たとえば,20代の若年者に限定した出所受刑者再入率(230頁で示されている。)と少年院出院者の「再入院・刑事施設入所率」との比較であれば,それなりの意味は見いだせるかもしれない。
 276頁ではまた,最近10年間の「再入院・刑事施設入所率」の値が「ほぼ横ばいの状態」にあるとされている。確かに,先にみた出所受刑者の再入率の低下傾向に比べれば,変化の大きさは小さい。しかし少なくとも5年以内の「再入院・刑事施設入所率」については,最近10年間で若干の低下傾向をみてとることも可能だと,筆者には思われる。
 また,出所受刑者の再入所の状況と同様,より長期間にわたって矯正施設への再入状況に変化がみられるかを検討することも,重要ではないだろうか。ここでは,これまで犯罪白書において公表されてきたデータ(CD-ROM 所収データを含む。)に基づいて,平成8年以降の2年以内,5年以内の「再入院・刑事施設入所率」の推移を示しておく(図E)。まず,5年以内の「再入院・刑事施設入所率」はこのスパンで推移をたどれば,低下傾向にあると評してよいであろう。また2年以内の「再入院・刑事施設入所率」については,年によって波があるものの,平成13年出院者までの数年間の数値が14% 前後であったのに対して,それ以降現在に至るまでは11〜13% 程度で推移していることから,ここに若干の低下傾向を読み取ることも可能だと思われる。

図E 少年院出院者の「再入院・刑事施設入所率」の推移



6 まとめにかえて
 以上,特集の内容の一部を紹介しながら,考えられる別種のデータ提示方法等について述べてきた。最後に若干ではあるが,再犯・再非行データの活用のあり方を展望してみたい。
 第1に,特集の末尾でも検討課題として触れられているが,とくに再入に関するデータの分析にあっては,再入を左右する複数の要因を組み合わせた検討が不可欠であろう。具体的には多変量解析(たとえばコックス回帰分析)の手法を適切に用いることで,どのような要因が再入に強く影響を与えているかを明らかにできると考えられる。
 第2に,信頼できる再犯に関する「前向きのデータ」(ある時点を起点として追跡することで得られるタイプのデータ)が,事実上,矯正施設経験者の再入のデータしかない点を,乗り越えていく必要があるのではないだろうか。たとえば,犯罪白書では長らく保護観察終了者の再処分率等が掲載されてきているが,たとえば保護観察付執行猶予者の取消・再処分率の推移をみることで,再犯状況の変化をみることができるかといえば,厳密には難しいと思われる。それは対象者の追跡期間(この例でいえば保護観察期間)が揃っておらず,同時にその追跡期間の分布(ばらつき)自体が年々変化していると考えられるためである。この例でいえば,すべての保護観察付執行猶予者について,保護観察開始からたとえば24か月経過した時点での取消・再処分状況を集計することができれば(厳密に言えば24か月未満で保護観察が終了する者もわずかにいるが),その値の年次変化を追うことで,再犯状況の変化をみることはできるであろう。また,法務省の持つデータと警察や裁判所が把握しているデータとを紐づけることも課題である(個人情報保護のために厳格な管理・運用を行うことが当然ながら大前提となる。)。とはいえ,これは中長期的な課題と言わざるを得ず,短期的には本特集でも言及されている刑事情報連携データベースシステムの適切な運用により,意義のある知見が積み上げられていくことを期待したい。
 最後に,本特集が犯罪白書に掲載されたことの意義の大きさを,いまいちど強調しておきたい。とりわけ矯正施設の再入に関するデータについては,可能な限り本特集と同等以上の公表と分析を,今後も(できれば毎年,少なくとも数年おきに)継続していくことを強く希望するものである。
(山口大学人文学部准教授)

1 たとえば以下のような点である。(1)従来用いられてきた「刑法犯」「一般刑法犯」の区分が廃止されて,従来の「一般刑法犯」に該当するカテゴリーが「刑法犯」と表現されることになった。(2)出生年ごとに,加齢に伴う非行への関与の変化を示す「非行少年率」(同一年齢人口10万人当たりの刑法犯検挙(補導)人員)の算出が,特定の1年間の出生コホート(たとえば27年版白書では昭和52年生,昭和58年生等)ではなく,6年間の幅のある出生コホート(たとえば昭和48〜53年生,昭和60〜平成2年生等)に基づいてなされている(100頁)。(3)少年鑑別所(法務少年支援センター)が実施する地域社会における「非行及び犯罪の防止に関する援助」業務の実績が示された(120頁)。(4)少年院入院者の被虐待経験に関するデータが示された(124頁)。
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